H3ロケット6号機(30形態試験機)1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)
2025年7月24日、H3ロケット6号機(30形態試験機)1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)が、それに先立つ7月22日にCFT準備状況に関する記者説明会が行われた。
(以下編集中)
CFT準備状況に関する記者説明会
配布資料: H3ロケット6号機(30形態試験機)1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)の準備状況 (PDF)
登壇者
- JAXA 宇宙輸送技術部門 H3 プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ
有田 誠(ありた まこと)
有田:前回は5月8日に説明会を開催させていただきました。その後5月16日、ロケットの点検中に想定と異なるデータが見られたということで、それを詳しく評価するためにCFTの日程を変更させていただく、ということをお知らせいたしました。また更に、6月10日にはCFTの実施をH-IIA 50号機の打上げ後に実施します、ということをネット上の特設サイト等でお知らせしてまいりました。この間、JAXA及びMHI殿を含めた関係者で、力を合わせて発生した事象についての詳しい評価と処置を行って参りました。これまでにこれを完了しまして、CFTの実施に自信を持って臨める状況という風になっております。本日はこれまでの準備状況を、30形態やCFTについてのおさらいも含めましてご説明したいと思いますのでよろしくお願いいたします。それでは資料の説明に入ってまいります。
有田:こちらが本日ご説明する内容です。1ポツから7ポツまで、本日は主にCFTの内容についてご説明をいたしたいという風に考えております。また前回のご説明から検討や調整が進捗した結果、少し変わったところもありますので、その辺りにスポットを当ててご説明したいと考えております。
有田:(資料2ページ)こちらはH3ロケット6号機、30(さんぜろ)形態試験機の説明です。前回も申し上げましたが私どもとしては、30のゼロのところ、LE-9が3基でSRBがついていない、という0のところを強調して30形態試験機という形で呼んでおります。この30形態は固体ロケットブースターを装着せず、3基の液体ロケットエンジン、LE-9エンジンのみでリフトオフをするという日本では初めての大型液体ロケットというところが特徴でございます。打ち上げに際しては性能確認用ペイロードを搭載して飛行実証をする計画にしております。また副衛星として、小型副衛星、超小型の衛星を6基搭載することにしておりまして、太陽同期軌道にこれを打ち上げるという計画にしております。
有田:(資料3ページ)2020年に秋田県のMHIの田代で実施いたしました、厚肉タンクを使用してのエンジン3基形態の燃焼試験の様子です。前回からの変更は特にございませんけれども、迫力ある映像をもう一度ご覧いただければと思います。今エンジンまだ点火しておりませんが、横からオレンジ色の炎が出ておりますが、エンジンから排出されます、未燃、燃えていない水素、これを処理するための外部トーチというものに火が付いてるという状況です。今エンジンがスタートしました。3基同時にスタートいたす。これでフル推力が出ている状態です。そして今エンジンが前後方向、そしてしばらくしますと左右方向に揺れ始めますけれども、これは振動で揺れているのではなくて、エンジンの推力の方向を制御するためのTVC装置が動いてるというところでございます。今エンジンをスロットルして推力を絞っているところです。このような形で3回の田代試験場での燃焼試験を無事に完了して、今回のCFTに臨むという形にしているところです。
有田:(資料4ページ)こちらがCFTの概要になります。こちらのページも前回からの変更はございません。打上げ当日と同じ手順で、ロケットを射点に移動して推進薬を充填し、エンジン燃焼試験を行って、ロケットそれから地上設備の機能を総合的に確認するということを目的にしております。
有田:(資料5ページ)こちらのページも前回からの変更点はありません。右の3つの写真ですけれども、こちらは3年前に実施いたしました、試験機1号機の機体を用いたエンジン2基形態でのCFTの様子です。この時のエンジンの燃焼時間、燃焼時間は今回と同じ25秒間でした。
有田:(資料6ページ)ここから準備状況の説明に入ってまいります。こちらは準備状況の説明の写真ですけれども、左側の4枚の写真は前回5月8日と同じものです。前回から進んだところは、右上の写真の通り、第2弾ロケットの上に試験用のダミーフェアリングを装着したというところです。このフェアリングは実は試験機1号機の極低温点検の時にも使用しました開発試験用のフェアリングで、フライト品と異なり白色の塗装、それから断熱処置がされてないということで、素材であるCFRP・炭素強化プラスチック、この黒色のままという風になっています。
有田:(資料7ページ)こちらのページが冒頭で申し上げた詳細の評価が必要となった事象について説明したものです。タイトルは「1段TVC作動電源電圧の低下事象」ということです。私が5月16日に申し上げた想定と異なるデータというのが、この電源電圧の低下というデータでした。では詳しい事象からご説明します。5月13日にCFTに先立ちまして実施した電気系点検の中で、1段エンジンの推力方向制御、先ほどの動画にもありましたエンジンを横方向に振るTVCですね。これを動かすための電動アクチュエーター、これを駆動する試験を機体に搭載した熱電池、これを電源として用いて実施をいたしました。
有田:試験自体は問題なく終了したのですけれども、後処置としてこの熱電池の放電を行っている間、通常よりも早い段階で一部の熱電池の電圧の低下が見られるという事象がありました。そしてその後機体を点検しましたところ、1段エンジン部内の熱電池近傍に艤装されていましたワイヤーハーネス。これは電線の束ですけれども、これが損傷しているということが判明しました。右下の図をちょっとご説明いたしますと、先ほど申し上げましたように、LE-9エンジンの推力の方向を制御するために、これを左右あるいはこの図で言うと前後方向に振るわけですけれども、このために電動アクチュエーターという風に書いてある、ちょっと茶色っぽい四角いものが付いていますけれども、これが電動アクチュエーターで、各エンジンに2個ずつ、30形態ですとエンジンが3つありますので合計6個付いてるという形になります。この電動アクチュエーターに電力を供給するのが熱電池で、左のロケットの全体図がございますけれども、この1番下のところにあります1段のエンジン部、この中に熱電池も搭載されていて、この電動アクチュエーターに電力を供給するという仕組みになってございます。
有田:続いて原因ですけれども、いつものように故障の木解析、FTAとしておりますが、これを作りまして、これをもとに製造記録の調査あるいは再現解析、あるいは再現試験、こういったものを実施した結果、こちらに書いてございますように、熱電池の特性のばらつき、それから当該駆動試験に特有である電力負荷の小さい条件、こういったものが重なりまして、熱電池の内部が従来よりも高温となった結果、電池の内部で短絡が発生して電圧が低下したという事象という風に特定することができております。熱電池近傍のワイヤーハーネスにつきましては、この熱電池が想定を超える発熱をしたということで、この影響を受け損傷したものという風にこちらも特定しております。
有田:これに対する対策ですけれども、こちらに示しますように、熱電池に対しては電池特性のばらつきを抑えるとともに、電池周辺の熱容量を増やすことによりまして、熱を外に逃しやすくするということによって、電池の内部の温度を適切な範囲に収めるという対策を取りました。そしてこの対策を施した熱電池は7月18日に機体への搭載を完了しております。そして損傷を受けたワイヤーハーネスにつきましては、修理あるいは交換を行いまして、こちらも7月の初めに修理を完了しております。
有田:(資料8ページ)こちらは燃焼試験の前日と当日のスケジュールです。後ほどご説明しますが天候の関係で少し変更がございます。当初の予定では最終の点火時刻を午前7時という風にご説明しておりましたけれども、これを1時間前倒しをして午前6時という風にしたいと考えてます。また全体のスケジュール余裕の確保のために、機体移動の時間を当初の予定から1時間早めるということ、それから今のX-0の時刻を1時間早めるということと合わせて、トータル2時間前倒して前日の15時という風にすることにしました。これに伴いまして、右側に書いてございます主要な判断タイミング、こちらの方もそれぞれ前倒しで変わってきておりますので、ご注意いただければと思います。これは前回もご説明したところですけれども、今回は打ち上げ時と異なりまして、予備時間をX時刻の前にあらかじめ確保するというやり方ではなくて、何か問題があった時にはX時刻を後ろにずらしていくというやり方を取ります。今のところ最も遅いケースでの点火時刻は16時30分という風に考えています。
有田:(資料9ページ)こちらはカウントダウンシーケンスです。こちらは前回からの変更はございませんけれども、注記に書いてございますように、CFTではエンジンへの注水のためにガスタービンポンプを使用するため、フレームデフレクターの作動が打上げ時と異なりX-53秒という風に早めになっています。X時刻、X-0の時刻はフライト時のリフトオフの時刻を想定しておりますので、LE-9エンジンはX-6.3秒で点火をいたします。燃焼時間はトータルで25秒間という風にしておりますので、X時刻を基準にしたエンジン停止の時刻はX+18.7秒の予定としております。
有田:(資料10ページ)こちらはCFT実施時の条件ですけれども、燃焼中の風速制限について更新をいたしました。こちらはエンジンの推力と、風によります荷重が合わさって、ホールドダウンシステムの許容を超える風速を、ばらつきも含めて詳細に検討した結果、エンジンの燃焼中の制限風速は最大瞬間風速で毎秒16.9mとしました。射点起立時の風速制限は22.4m/sですので、これより厳しい条件という風になっておりますけれども、一方、機体移動中につきましては風速が15m/sで、この16.9m/sというのはほぼ台風の風速に相当するものですので、このような状況になるのは非常にレアなケースではないかなという風に考えておるところです。他の条件につきましては従来から変わってございません。
有田:(資料11ページ)試験時の警戒区域につきましては前回からの変更はございません。ロケットへの推進薬の充填を開始する前から、射点を中心とした半径約2.1kmの範囲に立ち入り規制を行わせていただくこととしたいと考えております。
有田:(資料12ページ)こちらが最新の気象の状況です。機体を外に出す明日23日と、燃焼試験を行います明後日24日につきましては、断続的な雨は避けられない見通しではありますけれども、風は弱く、CFTの実施に移行可能という風に本日11時から実施した会議で判断を行っております。ただし燃焼試験の実施を最も遅らせて行った場合、先ほどご説明しました点火時刻で言うと16時半ですけれども、この場合に機体を返送することになるのが25日の未明から朝にかけてということになります。この図を見ていただきますと分かるように、25日の未明から天候の悪化が予想されております。私どもとしてはできるだけ燃焼試験ですとか特別点検、こういったものの時間を確保するために、全体の作業着手及び最終の点火時刻を1時間前倒しして実施させていただきたいというように考えているところです。皆様のご理解とご協力をいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
有田:(資料13ページ)こちらから参考資料ですけれども、参考資料につきましては15ページに示します機体把持装置関連だけ更新があります。(資料16ページ)続きまして把持装置につきまして、前回は最終調整を実施中ということでしたけれども、これを今回までに完了しておりますので、その点、3ポツのところですね、最終調整まで完了しているというところを変更しております。今回皆様にこの把持装置が実際に動いてるところをご覧いただきたいと考えて動画を準備しましたので、次お願いいたします。こちらがいわゆる待避状態にあるところの把持装置の状況です。真ん中の輪っかの中にある黄色い部分は、機体をソフトに把持するためのエアチューブになってます。今、機体と干渉を避けるために、ハンドと呼んでます、この前端の部分ですね。端っこの部分を開いたところです。そしてハンドが開き終わりますと、今度はアンビリカルマストに取り付けられたアームと呼んでる部分が、「気をつけ」の姿勢から「前ならえ」の姿勢になるように上に競り上がってまいります。このように機体のところまで来ます。そしてアームが水平状態になると、このように止まります。で、水平状態になった後、このように左右のハンドがこのように降りてまいります。そして最後にこの左右のハンドをロックで固定して、ちょっと上に競り上がりましたけど、ロックが完了した状態という風になっております。これから先ほど申し上げた黄色いチューブ、エアチューブに窒素ガスを加圧して機体を把持するということになります。ここまで約25分かかるということで、今回は早回しで約1分でご説明をしました。
有田:(資料18ページ)こちらはエンジン燃焼中に機体が飛び上がらないように発射台に固定しておくためのホールドダウンシステム。前回から変更がございません。(資料19ページ)こちらは燃焼試験のために使用するガスタービンポンプのご説明になります。(資料20ページ)こちらはH3ロケットの第1段推進系の概要図となります。以上ご説明しました通り、30形態試験機のフライトに向けた最終関門となりますCFTの実施に向けた準備は完了しておりまして、7月24日午前6時の点火に向けて慎重に作業を継続してまいりたいと考えております。ご説明は以上です。
質疑応答
JSTサイエンスポータル・草下:TVC駆動試験はH3ロケットのフライト前にも行っていると推察するが、そういう時にもまた再発する可能性があるのか?試験に特有ということは実際のフライトではこういう条件が重なることは起きないという理解でよいか?今後の機体製造や開発にフィードバックを施すような話であったのか?
有田:この試験自体はVABの中で、厳密に言うとちょっと違うんですけれども、CFTの時と同じようなTVCの動かし方を、あらかじめ熱電池を使ってやっておくという試験でした。これは30形態が初めての機体、初めてのCFTということで、この熱電池とTVCを組み合わせた試験は初めて実施をいたしました。CFTの時にはこのTVCをあまり大きく動かすことができません。煙道に炎が当たってしまうといった関係で、あまり大きく動かせないということもありまして、それと同じ角度で動かすというようなことをやっていました。実際にはフライトよりも随分小さい角度で動かすということになりますので、電池にとっては、エネルギーをある意味消費してくれないということで、電池の中にエネルギーが溜まってしまうというようなことで、電池にとっては厳しい条件での試験になっていたということが、後々考えると分かりました。ということで、フライトではもっと大きな舵角、あるいは回数も含めてこのTVCは作動しますので、このような現象はフライトでは起き得ない事象だという風には考えております。
有田:一方で、地上試験でこういうことが起きるというのも決して好ましい状況ではありませんので、今回2つの対策を取るということにしました。対策のところに書いてございますように、電池の特性のばらつき、今回この発熱量が大きくなりやすい電池の特性を持っていたということで、このばらつきを抑える対策を打つというのが1つ。それからもう1つは、電池の外側に熱容量を付加して、熱を外に逃がしてやる、うまく吸収してやるという対策を行うこととしています。これが今言われたフィードバックということになるかと思うんですけれども、それによって、このような地上での厳しい条件での試験でも、このようなことが再発しないようにしようということで対策を打ったものです。CFTの実施にあたりましては、この対策を施した熱電池を搭載して、実際にCFTでこれを動かしてみるということをやるということで、私どもとしては、これはもう再発する可能性は極めて低いという風に考えてCFTに臨もうとしているところです。
草下:6号機についてこの対策を講じたと同時に、今後の機体にもこれは反映するということか?
有田:先ほどちょっと言いそびれましたけれども、通常のフライトの時にも当然TVCの点検はやるんですけれども、熱電池を使っての試験というのは毎号機はやってございませんで、外部電源を使って試験するということをやっています。7号機以降につきましては、この6号機と同じ対策を施してフライトに臨むということを考えております。
草下:電池のばらつきを抑える、電池周囲の熱容量を増やすというのを具体的に
有田:この熱電池、先ほども申し上げましたけれども、今回は熱電池の特性として発熱量が少し大きくなる側の特性を持ってるということが製造記録で分かりました。ただ、この中身については大変申し訳ありませんが製造のノウハウに関わるところですので、これ以上のご説明は避けさせていただきたいと思います。それから熱容量を付加するということですけれども、簡単に言いますと、熱電池の外側に金属を巻くと言いますか、そういう形で熱を吸収してやる形で、金属の板を取り付けたっていうようなイメージを持っていただければと思いますが、ご説明になってますか?
草下:それは元々あったけども増やしたのか?それともないものをつけたのか?
有田:はい。これまではございませんでしたので、新たに付け加えました。
産経新聞・伊藤:今回事前に見つかった不具合は、実際にフライトに臨んだ場合、安定的な飛行ないしCFTの試験にに向けて正常に成功できなくなるような可能性はなかった、ということか?
有田:先ほどお話しましたように、フライト時に発生する舵角等であれば十分エネルギーが消費されて、熱電池はここまで高温になることはなかったという風に考えていますので、フライトに対しては問題なかっただろう、このままフライトさせても問題なかっただろうという風に考えております。
伊藤:原因究明と対策まで比較的時間がかかったように見えるが
有田:先ほど申し上げましたように、フライトに対しては影響がなかった可能性はあるものの、やはり望ましい状況ではなかったという風には考えております。このワイヤーハーネスに影響を与えるような温度上昇というのは決して好ましい状況ではありませんので、そういったポテンシャルは排除すべきだろうという風に考えました。ですので、この熱電池に対してきちんと原因究明をするというのがまず最初に私たちが考えたところです。どういう原因でこういう事象が起きたのかというのをしっかり把握して、自信を持ってCFTやフライトに臨めるということ、後続号機の22形態や24形態に対しても同じような不安を持ってフライトに臨むということは避けるべきという風に考えましたので、しっかり原因究明をするということで少し時間をいただいたというところです。
伊藤:不具合が見つかったでCFTのスケジュールが大きくずれたが、6号機の打ち上げスケジュールいつ頃になるか?HTV-Xとの兼ね合い、6号機、7号機の打上げ順の入れ替え等々、ちなみにHTV-Xを打ち上げる場合は、22形態になるのか、24の形態になるのか
有田:6号機の打上げはどうなるのかというご質問ですけども、これについては、まずはとにかくですね、この最終関門であるCFTをしっかり仕上げて、そのデータを評価して、それから検討・調整ということになるという風に考えておりますので、現時点はちょっとお答えするのが難しいかな、という風に思ってます。それからHTV-Xにつきましては、これはやはりあの大事な国際宇宙ステーションとの関係もあるということで、この打ち上げについては工程表の予定を守っていくというのが基本になるかな、という風に思っていますので、そういったことを含めて今後調整をしていくということになると思います。6号機と7号機は入れ替わるのかということにつきましては、やはり6号機の日程については現時点はCFTの結果を待たないと何とも言えないということで、本日の時点ではお答えできかねるというところです。それからHTV-Xについては24形態での打上げということで考えております。しかもフェアリングにつきましてはワイド型のフェアリングということで24Wという形態になる予定です。お答えになってますでしょうか?
伊藤:6号機と7号機打上げの入れ替えも視野には入れているという理解でよいか?
有田:この辺り、現時点はなかなかお答えしにくいところでございますので、ご理解いただければと思います。
NHK・平田:試験の検証項目について詳しく聞かせてください。3基燃やすことによってどういった項目を見ていきたいのか、今回の検査項目を数字にするとどれぐらいか25秒間燃焼の意味合い
有田:まず、ご質問いただいた検証の意味、3基燃焼させることの意味と言いますか、この辺りですけれども、20ページを見ていただきますと、液体酸素と液体水素ふたつのタンクから、フィードラインと呼んでいます供給配管、こちらからエンジンへ推進薬がこう通ってるという格好になります。エンジン3基になりますので、タンクから消費される推進薬の量が1.5倍になるということで、ここのタンクの加圧ですね、どんどん空の部分の容積が増えていくわけですけれども、ここの圧力が低くなってしまうとエンジンが推進薬を吸い込めなくなるというようなまずい状況になります。そのために、この点線で書いております加圧配管というものがありますけれども、エンジンの中で熱交換をした水素ガスや酸素ガスでこの空いたところの空間を埋めて加圧をしてやるというシステムが備わっています。3基の燃焼をやることで、この実際のタンクの中で推進薬が減っていく状態を実際に、解析とかシミュレートではなくて実際にその現象を起こさせると、そしてエンジンで熱交換したそれぞれの加圧ガスがうまく入って、このタンクの加圧がきちんとできるかどうか、というのを確認するのがこの一段推進系の確認の1番大きなところです。
有田:この25秒間というのは、このタンクの加圧を行うためのバルブがこの配管の途中にあるんですけれども、これが複数回作動することを確認できるミニマムの設定しているものです。というのが、このCFTである意味1番検証したい、この推進系の確認に必要な内容ということになります。他にも先ほどの動画にもありましたエンジンのTVCを振る試験ですとか、あるいは把持装置がきちんと動くかどうかを確認するとか色々ありますけれども、一番確認したい項目は推進系の確認ということになります。計測点数についてはかなりの数があるもんですから、数えるのにちょっと時間がかかると思いますのでお待ちいただければと思います。
平田:電気系の不具合を受けて追加した項目はあるか?
有田:熱電池に関して何か特別な計測を増やしたとか、確認項目を増やしたということは特にはないんですけれども、一応このCFTの時にはエンジン部の中に監視カメラを何台か設置しております。そのうちの1台を、熱電池の方が見えるようにということで、異常な状況がないかどうかが目で見て分かるようにするということは追加しました。
有田:計測項目について。CFTの時だけ特別計測として追加している計測項目として約300点あるということで、フライト時は電波で送るテレメーターだけしかなくて、送れるデータに限りがあるんですけれども、今回CFTは地上での試験ということで、直接ハードワイヤー、電線を這わせた状態でデータを取るということもできますので、300点追加のデータを取得してエンジンや推進系の詳しいデータを取得するということにしているというところです。
平田:その300点の多くが1段の推進系に関する計測なのか
有田:推進系だけではなくて、例えば各部の温度のデータですとか、加速度のデータですとか、あるいは音響など諸々のデータがありますので推進系ばかりではありません。
平田:その中でより多い項目は
有田:そういう意味ではエンジンの状態の監視というのは最重要の項目ですので、やはりエンジン・推進系周りを充実させているというのは、おっしゃる通りかなと思います。
時事通信・神田:LE-9が2基から3基に変わると動き方も若干変わってくると思うが、3基になると試験で熱電池にとって厳しい条件になるのか
有田:実は動きとしては、3基形態の方が角度としては小さくて済むということがあって、熱電池にとってはより厳しい側の条件になったというところがあります
神田:22形態打上げ時の風速20m/sより厳しいが、これは20何秒間やってる時の風ということか?SRBがない30形態では打上げ時の風の条件は24・22形態と比べて厳しくなる方向なのか?
有田:燃焼試験だから厳しくなってるのか、というご質問に対してはイエスです。打ち上げの時にはほぼ100%推進薬が搭載された状態で飛んでいくということで、その条件での制限荷重、ホールドダウンシステムにかかる荷重を燃料がほぼ100%入った状態で考えています。一方、今回は25秒間燃焼するということで約10%ほどは推進薬を消費します。その分機体が軽くなるわけですね。そうすると、エンジンの推進力は変わりませんので、より上に飛び出そうとする力が強くなる、ということでホールドダウンシステムにかかる荷重はより厳しくなる。逆に言うと風速が厳しくなるということで、これは燃焼試験特有で厳しくなっている、という風にご理解いただいて結構かと思います。
有田:それから22形態と30形態で風速制限が厳しくなるのかというご質問については、今まだ詳細評価中ではありますけれども、現時点の見込みとしては、30形態の方がわずかですけれども厳しくなるという見立てをしてます。この理由は30形態がエンジン3基付いているとはいえ、SRB2基に比べますと、上昇時の加速度が小さいということで、我々、パッドクリアランスと呼んでるんですけれども、発射した直後の発射台とのクリアランス、風で横に振られて接触するようなことがあってはいけないので、そのために風速制限をかけてるんですけれども、この上昇加速度が遅いと風の影響を受けやすいということで、30形態の方がやや厳しくなるんではないかという風に今見込んでいるところです。それはそんなに大きな値ではないかな、という風には思ってます。
神田:30形態試験機でも、定常的に打ち上がっていくとすればやらないようなデータも取得する準備をしているのか?
有田:できるだけデータを取りたいという思いは3号機の後?に私からもお話をしているところなんですけれども、残念ながらですね、この30形態試験機に向けては、テレメーターシステムの大幅な改修というところまでは踏み込めておらず、テレメーターのリソース自体は大幅に増やすということはできていません。ただ、おっしゃっていただいたように試験機ですので、できる限りのリソースの範囲内でできる限りのデータは取るということはやっておりまして、この30形態としては十分なデータを取れるように備えているというところでございます。
NHK鹿児島・財前:推進薬は打上げ時同様100%充填して、25秒の燃焼で10%ほど消費するという認識でよいか
有田:打上げと同じようなオペレーションをして、100%充填された状態を確認して点火するということで、ご認識の通りです。
財前:今時点このCFTに向けた有田さんの今のお気持ち、意気込み
有田:本当は2ヶ月前にすんなり行くと良かったな、というところはあるんですけれども、幸い22形態とも根っこが一緒な部分の不具合と言いますか弱点が見つかったというところで、この30形態試験機、30形態特有ではないものの、やはり試験機としての意味があったかな、という風に考えています。ですので、より磨きをかけた状態で、CFT、それから今後のフライトに臨めるということで、1つこう禊を済ませたというような気持ちがあります。ですので、皆様も含めてお待たせしてしまった分、確実にCFTを仕留め、次のフライトに臨んでいきたいという風に考えてます。
秋山:5月8日の記者説明会で30形態の主な顧客が日本の政府系衛星という話だったが、昨年だけでも世界で400機近く打ち上げられているSSOのについても海外受注ということを目指しても良いのでは?とも思える。日本中心ということになった理由は
有田:いろんな事情に詳しい秋山さんですからあれなんですが、SSO自体には最近小型衛星が随分増えて、衛星の数としては増えているかな?という風に思うんですけれども、ロケットの数そのもので言うとSSOの打上げはそこまで多くはないのではないか、というのが私どもの持っている印象です。商業衛星としては通信・放送系のものが主体を占めていまして、静止軌道もしくは中緯度の軌道を取る衛星、もちろん極軌道を通るものも中にはありますけれども、そういったものが主体であって、いわゆる地球観測を主体とするSSOへの商業ミッションというのが非常に多くなってきている。マーケットのボリュームゾーンを占めているという風な認識にはちょっとないところがあります。一方、政府の衛星につきましては、こういった地球を見るという非常に重要なミッションがございますので、そちらは安全保障面も含めて重要なミッションであるという風に考えており、このSSOの打上げを得意とする30形態の主たるターゲットをこの辺りに置いてきたというのが、これまでの経緯でございますが、秋山さんの認識と違うところがあって恐縮ですけれども、いかがでございましょうか?
秋山:海外受注を排除するというわけではないが、当面は需要として見えてこないという理解でよいか
有田:そうですね、今私どもで考えておりますH3の高度化の中では、小さな衛星をたくさんいっぺんに打ち上げる構想をブロック1というものの中で考えております。これはやはり地球観測が大きなターゲットになってくるかな、という風に思いますので、そういった意味では、ロケットの本数としては決して多くはないんですけれども、今後のターゲットにはなっていくものという風には考えております。
宇宙作家クラブ・渡部:試験機1号機のCFTと異なる点または新たに追加される試験があるか?機体把持周りで確認したい項目
有田:CFTそのものは、エンジンが2基であるか3基であるかという点が1番大きな違いになります。先ほど申し上げたように推進薬の減り方が1.5倍違いますので、この辺りの検証が30形態と必要だとしています。ここが今回のCFTの大きな眼目ということになります。
有田:把持装置は何を検証するのかというところですけれども、先ほど動画でもお見せした、機体をソフトに取り囲むエアチューブがあるわけですけれども、それは一応機体に密着しないといけないわけですね。一方、機体の把持する部分自体はタンクではないので直接低温になってるわけではないんですが、その上と下には極低温の燃料が入ってるということで、徐々に冷やされて、その部分も冷えてくるという可能性があります。エアチューブと機体の間が氷結するというようなことになって、把持装置が離れないというようなことがあると、これは打ち上げに影響してしまいますので、そういったことがないということを実際に確認をするということが、この極低温の状態で試験をするという意味と考えてます。
読売新聞・山路:30形態に熱電池は何個積まれていて、不具合が見つかったのはいくつか。電気エネルギーがあまり消費されないと何故熱が上がるのか
有田:熱電池が何個搭載されてたかということですけれども、この試験の時に熱電池は6個搭載しておりました。実際に電圧が低下したのはそのうちの3個です。なんですけれども、工場に持ち帰ってよくよく観察をしてみると、電圧の低下しなかった残りの3個につきましても、首の皮1枚と言いますか、そういう状況であるということが分かりましたので、ほぼ同じ事象が6個の電池に共通して起こっていたという風に今は考えています。それから電気が溜まるということと熱が上がるということがどういう関係にあるのかというご質問ですけれども、この熱電池というのは内部で電解質が熱を加えることで液状化して電力を発生するという、一次電池なんですけれども、そこで発生したエネルギーを外で消費してあげると、吸熱反応が起きて、電池の中で発生する熱を逆にどんどん奪ってくれるというようなメカニズムがあるというものです。ですので、逆に電力が使われないと、その吸熱反応が進まず、逆に発熱反応も合わせて起きているもんですから、その発熱反応の方が優位になって、どんどん熱電池の温度が上がっていくと、そういったメカニズムで温度が上がっていったという風に考えています。
山路:30形態が政府衛星を想定しているということで、宇宙基本計画の工程表でどの衛星がターゲットになるのか
有田:H3ロケットで打上げるという風にしております衛星のうち、情報収集衛星光学多様化1号機、2号機、あるいは光学9号機、こういった情報収集衛星シリーズが主たる30形態のターゲットという風に考えてございます。
山路:高度化の中で小さな衛星を打ち上げる話も出てくるということだが、それも30形態で打ち上げるのか
有田:ここはまだ決まっておりませんで、SSOに行くということになると30は価格競争力の面でも有利になる可能性はありますけれども、どういった衛星が集まってくるか、これによるところがありますので、現時点なかなか何とも申し上げにくいところではあります。