新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)運用概要と主な搭載品に関するメディア向けミッション勉強会

2025年9月25日、新型宇宙ステーション補給機 HTV-X 1 号機運用概要と主な搭載品に関するメディア向けミッション勉強会が行われた。以下に、6月に行われた新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)1号機機体公開からアップデートされたもの、および深掘りされたものをピックアップした。

登壇者

  • 有人宇宙技術部門 新型宇宙ステーション補給機プロジェクトチーム ファンクションマネージャ
    若月 孝夫(わかつき たかお)
  • 有人宇宙技術部門 新型宇宙ステーション補給機プロジェクトチーム ファンクションマネージャ
    原田 基之(はらだ もとゆき)
  • 有人宇宙技術部門有人宇宙技術センター 技術領域主幹
    松本 聡(まつもと さとし)
  • 追跡ネットワーク技術センター 技術領域主幹
    中村 信一(なかむら しんいち)
  • 研究開発部門第二研究ユニット 研究領域主幹
    上土井 大助(じょうどい だいすけ)
  • 研究開発部門第一研究ユニット 主任研究開発員
    奥村 哲平(おくむら てっぺい)

HTV-X 1号機

  • 9月25日現在、与圧カーゴは既に搭載済み。HTV-Xでは与圧カーゴに対して電源供給機能が追加されたが、1号機では冷凍・冷蔵庫は搭載していない。生鮮食品も従来通り保冷剤と共に保冷バッグに詰めて、レイトアクセス時に搭載する
  • 従来の80時間から24時間前のレイトアクセスが可能になったが、これは搭載作業の徹底的な見直しにより10分、20分、30分といった時間短縮を積み上げたもの。たとえばレイトアクセスに用いる作業台をいかに素早く撤収できるようにするか、など
  • 与圧モジュールのCBMハッチに取り付けていた熱防護材をなくしたこともレイトアクセスの作業時間短縮に大きく貢献している。ハッチの熱防護材はHTVのフライト結果を解析した結果、必要ないと判断された
  • 搭載量について。HTVでは実カーゴ4トン+搭載用ラック等2トンで合計6トン搭載可能と記載していた。その後バッテリや太陽電池パネル等を減らすことでドライ重量が減りカーゴ搭載量は4.7トンに増えた。HTV-Xではロケット搭載時に与圧部が下にくるような機体配置の工夫により機体重量を更に減らすことで実カーゴ6トンを実現した
  • HTV-XがISSのロボットアームに把持されたタイミングを「到着」としているが、その後2時間ほどかけてアームで機体をポートに移送してドッキング作業を行う。この時点でISSのクルーにとっては「残業」の時間帯になるのでハッチオープンは翌朝になる
  • 自動ドッキング技術実証の実施号機は現時点で未定。2号機以降で曝露カーゴに余裕がある号機で実施
  • 1号機でも自動ドッキング技術実証に向けた準備を行う。ISS離脱時にHTV-Xをアームで把持後、通常の離脱時とは異なる形でHTV-Xを動かして、自動ドッキングに用いる航法センサの精度を確認する
  • HTVは「H-II Transfer Vechicle」の略称だったが、HTV-Xは「次世代HTVの開発号機」という意味を込めてつけた仮称を正式名称とした。「こうのとり」のような愛称は付けるかどうかも現時点では未定
  • ポストISSの商業ステーションへの物資補給システムとして日本低軌道社中がHTV-Xをベースにした商用物資補給船の開発を発表し、HTV-XCという名前も出ているが、JAXAがどう関わるかは未定

Mt.FUJI

H3 3号機で打上げられたキヤノン電子のCE-SAT-IEに搭載されたMt.FUJI(2024年1月23日撮影)
  • SLR(衛星レーザ測距)で宇宙機の姿勢推定はこれまでにも行われているが、宇宙機側で得た姿勢変化を取得して照らしあわせるのは世界初。またMt.FUJI自体はキヤノン電子の小型衛星に搭載して軌道決定の実証済みだが、姿勢推定は今回が初めて
  • 実験には世界40のSLR局が参加するが、HTV-Xが実際にどんな姿勢を取るかは伝えていない。つくばのSLR局でも限られた人間以外には伝えていない
  • 姿勢推定には地上側レーザも分解能が必要。つくばのSLR局は毎秒1000回の測距が可能
  • HTV-X 1号機には3つのリフレクタが搭載されているが、これは死角を減らして確実に観測出来るようにするため。研究が進めば1つのリフレクタでも姿勢推定が可能となり、デブリのタンブリング等の地上観測に応用出来るかもしれない

DELIGHT/SDX

  • いずれは宇宙太陽光発電(SSPS)にも用いたいが、まずは30m級の平面アンテナの実現を目指したい。これは降水レーダ衛星(PPM)の次を見据えたもの。30m級であれば静止軌道から観測出来る
  • CFRPサンドイッチパネルなどを用いるため面密度17kg/m2程度になるが、30m級平面アンテナでは面密度3kg/m2に抑えたい。そのため今回軽量平面アンテナ(LPA)では厚さ0.16mmの2層のCFRPクロスを用いている
  • LPAが3角形なのはシワを防いで平面精度を確保するため。固定する箇所が増えれば増えるほど膜面にシワがよりやすい
  • LPAを固定する3点のうち1点はそのまま固定、残る2点はバネで張力を与えながら固定している(膜面を指でノックするとコンコンと高めの音が返ってくるぐらい強めの力で張られていました)
DELIGHTに設置される軽量平面アンテナ(LPA)のEM。銀色の部分がパッチアンテナとそれを結ぶ線路(2025/9/25撮影)
面密度3kg/m2を実現するため、通常はCFRPサンドイッチパネルが用いられる部分に厚さ0.16mmの2層のCFRPクロスを用いている(2025/9/25撮影)
直角二等辺三角形のCFRPクロスは各頂点でDLPに固定される。固定する点が増えるほど膜面にシワが生じやすくなるので、LPAは三点で固定している(2025/9/25撮影)
鋭角側の二点はバネで引っ張る形で固定している。これもシワの発生を防ぎ、膜面の平面精度を上げるための仕組みだ(2025/9/25撮影)

なお、HTV-X 1号機は2025年10月21日 10時58分頃(日本標準時)に打上げ予定。詳細な打上げ時刻はISSの軌道に合わせて直前に決定される。