H-IIAロケット47号機の打ち上げ前プレスブリーフィング
2023年8月24日14時よりH-IIAロケット47号機の打ち上げ前プレスブリーフィングが開催されました。なお、このブリーフィングの翌日に再度の打ち上げ日変更がありましたので、それも可能な限り含めています。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
宇宙航空研究開発機構 XRISMプロジェクトマネージャ 前島 弘則
宇宙航空研究開発機構 SLIMプロジェクトマネージャ 坂井 真一郎
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 MILSET長 鈴木 啓司
・打ち上げ延期について
X線分光撮像衛星(XRISM)および小型月着陸実証機(SLIM)を搭載したH-IIAロケット47号機の打上げが2023年8月26日に予定されていましたが、天候の悪化が予想されることから、下記のとおり変更いたします。
打ち上げ日時:2023年8月27日午前9時30分15秒(JST)
打ち上げ予備期間:2023年8月28日~2023年9月15日
打ち上げ予備期間中の打上げ時刻は打上げ日毎に設定する
※8月27日の打上げの可否については、明日以降の天候状況を踏まえ再度判断します。
(※注:翌8月25日の天候判断により、2023年8月28日午前9時26分22秒(JST)に再度変更されています)
・準備状況と予定について(配付資料から抜粋)
・H-IIAロケット47号機は飛島工場を2022年8月3日に出荷後、射場にて保管。2023年7月11日に射場作業を開始。
・以下の射場整備作業を良好に実施。
・X線分光撮像衛星「XRISM」及び小型月着陸実証機「SLIM」とロケット機体の結合作業(~8月11日)
・機能点検(~8月13日) 機体の各機器が正常に作動することを確認
・カウントダウン・リハーサル(8月14日)
・関係要員に対し打上げ当日の対応手順を周知徹底するために、打上げ時の作業を模擬。
・発射整備作業を実施中(8月21日~)。
・8月24日 天候悪化の予想により打上げを延期。
・8月26日19時頃 機体移動(予定)
・8月27日0時 種子島宇宙センター入構規制開始(予定)
・8月27日午前9時30分15秒打上げ予定
(※8月25日に再延期が決まり、上記スケジュールは下記のように変更されています)
・8月27日19時より前頃? 機体移動(現段階で正式発表が無いため推定)
・8月27日23時45分~ 種子島宇宙センター入構規制開始(予定)
・8月28日午前9時26分22秒打上げ予定
・質疑応答
MBC・打上げに向けての意気込み。
鈴木・今、両プロマネから説明がありました通り、XRISMとSLIMという衛星が日本の科学技術の上で重要な衛星であることを認識しています。加えてH3TF1号機の失敗の後、基幹ロケットとしては初めての打上げになることも併せて、今回の打上げが私共とH-IIAにとって特別な打ち上げであることは重々認識しています。でありますけども、特別な打上げであるからこそ、ここから先は特に平常心で、やるべきことを一つ一つ丁寧に冷静に行っていく事が重要だと考えております。ここからの作業をしっかり行う事にって必ず打上げを成功させたいと強く思っているところです。
読売新聞・衛星が無事に分離したらクリティカル運用に入ると思うが、管制はどちらも相模原で行うのか。打上げ当日はどちらで見守る予定か。
前島・XRISMの追跡管制運用は主として相模原の管制室から行います。私は打上げまではこちらで作業して、打上げが成功したら速やかに相模原に戻って追跡管制運用の方に参加します。
坂井・SLIMの方も同様で、探査機の運用に関しては相模原から行う予定になっています。私自身はこのあと相模原に戻る予定になっていて、初期運用については第1可視から相模原から運用に参加する予定です。
KTS・昨日インドが月面着陸に成功した。資料によるとインドのものよりも日本の月面着陸は精度が高いという捉え方をしているが、昨日の世界初となった(月)南極への着陸が、坂井さんの気持ち的にどんな風に影響していて、やるべきことを全てやられていると思うが、あらためて月面着陸への思いを聞かせてほしい。
坂井・私も昨晩の着陸の様子はリアルタイムで見守っていたが、月着陸は依然として非常に難しい技術だと以前から認識していたので、恐らくチャンドラヤーン2の経験を踏まえられた上だと思うが、無事に着陸を成功させたことについては素直に敬意を表したいと考えています。それに続く形になるためにも、我々としては自分達の運用にはもちろん全力をあげると、あらためて思っていたところです。
共同通信・H-IIAの4/4D-LC型のフェアリングについて、衛星が2つ入っているという事で、同時に打上げる事での利点と技術的な難しさはどこにあるか。
鈴木・利点としましては、衛星1基につき1機のロケットを使用するより衛星1基あたりの打上げにかかる費用が安く済むという事だと思います。難しさに関しては、4/4D-LCというフェアリングそのものが2階建て構造になっていて、まず上部に積んだ衛星の周囲のフェアリングを分離して、その次にXRISMを分離して、次に2階の天井部分にあたる下部フェアリングアダプタを分離して、下部フェアリングの壁の部分を分離して、ようやくSLIMが分離出来る。通常のフェアリングと比べると複雑ですし機能的にも数の多い構成となっておりますので、これを確実に実施していくところが通常のフェアリングより難しいところになっていると思います。飛行経路としては今回特にXRISMは地球周回軌道で、スリムは月遷移軌道ということで異なる軌道に投入するため、その間に2段ロケットを再点火する行程が挟まっているのが特徴的なポイントだと思います。
坂井・念のためですが、遠地点が非常に高い地球周回軌道という意味でおっしゃられたと思いますが、月遷移軌道に直接入れる訳ではなく、いったん地球周回の軌道に入れていただいた後に月に向かって出発することになっています。
NVS・打上げが延期になり時刻も少し変わったが、延期1日でどれくらいずれるのか。
鈴木・日によって少しずつずれる幅が異なりますが、概ね4分前後くらいずつ早くなっていく。今回34分だったものが30分になったと思いますが、それくらいの感じでだんだん早くなっていくと考えてください。
NHK・H3の失敗後となるロケット打上げというところで、共通する部品の検査強化などの対応をされていると思うが、失敗の影響の懸念は十分払拭できたといったコメントがあれば。
鈴木・H3の失敗の原因に関しては原因究明が進められていて、文科省の調査安全小委員会の方でJAXAさんから詳しく説明がなされていますが、そこで報告されている通りの反映事項をH-IIAロケットに関しましては共通部分ということで、ニューマティックパッケージそれからエキサイタスパークプラグに関しまして、絶縁の強化や検査の強化、加えて部品の選定に関わる部分というところで、定められた対策を確実に実施してまいりました。しっかりそれぞれのコンポーネントに作り込みを実施しましたし、これを機体に組み込んだ後の各種の機能点検の結果としても非常に良好な数値を得ております。従いまして今回反映した対策については自信を持って臨めるものと考えております。
フリーランス林・SLIM探査機の準備状況ですが、非常にユニークな探査機ということで、燃料と酸化剤が一体型になっていて、例えば燃料の充填や加圧に時間がかかっとか、気を遣ったところとか、気を遣ったとか大変だったポイントがあったのかどうか。あとセレーネBの構想から20年近く経ってようやくこの日を迎えた訳だが、その辺りの心境と意気込みをお願いします。
坂井・おっしゃっていただいた通りでして、一体型タンクという事もあり、また非常に多くの推薬を積んでいることもあって、推薬の充填作業、それから引き続く加圧の作業のところは、元々慎重に注意をしながらやる必要があることを強く認識しながら計画を立てて進めてきました。おかげさまで関係者の努力もあって無事に予定通りの推薬充填作業を完了して今日を迎える事ができているという状況になっています。セレーネBにも言及いただきましたが、私自身が20年前からこの計画に携わっていた訳では無いのですが、長い間非常に多くの、JAXAの中、それから多くの大学の研究者の方も含めて非常に多くの方の研究成果あるいは努力でこの日を迎える事ができているという事は強く認識しております。小型の機体ではありますが非常に多くの方々のいろんな思いが詰まっていると強く認識しているところでございますので、繰り返しになるが、万全を期した運用をこれから先は行う事でなんとかこれを成功させたいという風に思っています。
JSTサイエンスポータル・2段階着陸方式だが、手順としてまず1本の足で月面に接地して、15度の斜面の山の方(高い方)に倒れ込み、残りの4本の脚を使って安定した着陸状態になると理解しております。そこで斜面の高い方に向かって倒れ込む理由と、倒れ込む向きを制御する仕組みについて説明願います。倒れ込む時はスラスタを吹いて制御するのか。5本の脚があるが全部が接地するとは想定していないという理解は正しいか。
坂井・(※身振りと模型で説明)最初はおっしゃっていただいた通りで、最初に月面に接地することになるのはこの脚(メインエンジン側)になります。斜面が無いのでやりにくいが、真っ直ぐ降りてきたSLIMが少し姿勢を傾けながら着陸をして、最初にこの脚が月面に対して接地をする形になります。斜面に向かって倒れ込む合理性の説明ですが、逆のパターンを考えていただくと判りやすいかと思いますが、もし誤って下り坂に向かって倒れ込むように着陸すると何が起こるかというと、着陸をすることによって前のめりのようなモーメントが発生する事になりますので、着陸をした後に探査機が前転をしてしまう形で転がってしまうリスクが高くなる。非常にざっくりとした説明ではそういう形になります。そういった事を防ぐために我々としては意図的に斜面に対して倒しこむ形で着陸をすることを予定しています。脚についてはご指摘の通りで、基本的には最初に着く脚(エンジン側)とこの2つ(前側)が接地することを予定していて、左右の2つについては、少しずれた形で着陸した時に横に転倒してしまうのを防ぐためについている脚となりますので、補助的な役割を持っている脚ということになっています。具体的に姿勢を倒し込む方法ですが、地面に近いところではスラスタを吹かないという事にしていますので、ある高度に達したところで斜面の方に倒れ込むような速度を与えた状態で着陸を迎えさせる。着陸の寸前に積極的にスラスタを吹いて姿勢を倒すというよりは、前に倒れ込む角速度を与えて接地させるということを予定しています。
JST・脚が5本あって、最初に接地するメイン1本は決まっていて、残り4本のうち離れた方の2本で接地することを考えていて、ぐらつかないように補助的な2本があるということか。
坂井・はい。
以上です。