新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)1号機機体公開

2025年6月2日、JAXA種子島宇宙センター・第2衛星フェアリング組立棟(SFA2)で新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)1号機が報道関係者向けに公開された。

公開されたHTV-X 1号機。こちら側(-Z面)をISSに向けて接近する。自力で接近後は写真中央に見える突起(グラップルフィクスチャー)をロボットアームで把持して係留する
+Z面。下から与圧カーゴを搭載する円筒状の与圧モジュール(PM)、電気系や推進系などを集約した八角柱状のサービスモジュール(SM)、一番上が曝露カーゴ搭載部(UPCSS)。PMとSMをつなぐ円錐台状の部分が与圧モジュールアダプタ(PMA)

HTV-Xは2009年から2020年まで合計9機打上げられ国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送を担ったHTVの後継機に位置付けられ、船内用の補給物資だけでなく大型実験装置も輸送可能な与圧カーゴ搭載部(与圧部)や、船外用物資を搭載可能な曝露カーゴ搭載部(非与圧部)といったHTVの特徴を引き継ぎつつ、与圧カーゴへの電源供給や、運用手順の見直しによる打上げ24時間前の物資搭載(HTVでは72時間前)、曝露カーゴ搭載方式の変更(船体中央から船体最上部)による更なる大型物資の搭載など、輸送能力が大幅に向上している。

太陽電池がボディマウントだったHTVから2翼の展開型パドル形式になったことも特徴だ。これにより発生電力が1.5倍となったことで、HTV-Xでは一次電池を廃し二次電池のみとなった他、後述する技術実証ミッションにも安定した電力供給が可能となった。

更に、HTVではISS離脱後3日ほどで再突入していたが、HTV-XではISS離脱後最長1.5年の軌道上飛行が可能となり、将来に向けたコア技術獲得を見据えた実証プラットフォームとして活用される。また電気系・推進系と曝露カーゴ搭載部を集約したサービスモジュール(SM)と与圧モジュール(PM)という構成に改めることで、射場での組立作業が大幅に効率化すると共に、将来的にはモジュール単独での使用も可能とした。

HTV-X 1号機は現在PM/SMを組み合わせた全機形態(全機結合)で通信・電気関連の機能を確認中で(全機能試験)、今後は一旦全機結合を解除してSMに推薬充填、PMに与圧カーゴを搭載、その後再び全機結合されて(再全機結合)フェアリングに収缶、H3ロケットに搭載される。また筑波では実運用に向けた訓練が実施中で、現在約8割ほど終了している。

なお曝露カーゴ(i-SEEP)および技術実証ミッション・DELIGHTは既に曝露カーゴ搭載部に搭載され、HTV-Xの電源や通信を用いるDELIGHTの電気系試験も完了している。曝露カーゴ・実証ミッションの搭載は通常打上げ2.5か月前に行われるが、1号機では準備が完了していたので4月上旬での搭載となった。

SM側面の黒い部分が太陽電池パドル。H-SSODは太陽電池パドルの下のPMAに設置されたパネル上に取り付けられる。パネル取付部は反対側の面にも用意されるが、1号機では-Y面のみ使用する。パネルには6UサイズのH-SSODを2基設置可能

HTV-X 1号機では3つの技術実証ミッションが予定されている。超小型衛星放出「H-SSOD」、衛星レーザ測距用小型リフレクタを用いた軌道上姿勢運動推定実験「Mt.FUJI」、展開型軽量パネルの軌道上展開と平面アンテナにより地上からの電波を受信する「DELIGHT」および次世代宇宙用太陽電池の軌道上実証「SDX」だ。

廃棄物資を搭載した状態でISSを離脱したHTV-X 1号機は、まず一週間ほどかけて高度約500kmまで上昇して日本大学の6U衛星「てんこう」を放出する。高度が高くなることは衛星寿命の点で有利だ。

続いて、与圧部のハッチ周辺に120°の位相差で設置した三基の小型リフレクタに向けてSLR地上局からレーザを照射してセンチメートル単位の精密軌道決定を行う「Mt.FUJI」を約3週間かけて行う。「Mt.FUJI」は少しでも視野を広くとれるように宇宙ステーションより高い高度で実施する。この間、HTV-Xは通常の飛行姿勢だけでなく、与圧モジュールを下に向けた姿勢や振り子のような回転を与えることで、姿勢運動の推定・精度評価を行いつつ、テレメトリから得た姿勢運動と照らし合わせて「答え合わせ」を行うことでSLRの定量的な精度評価を行う。

最後に約2か月かけて行われる技術実証ミッションが「DELIGHT」「SDX」だ。DELIGHTは地上との距離が近い方が良いので宇宙ステーションより低い高度で行う。

DELIGHTは4枚×2列の展開型軽量パネル・DLP(展開後4×2.2m)で構成され、まず1列を展開後、パネル間を貫いている紐をモータで巻き取りパネルを結合、さらにパネル間のラッチ機構で固定される。続いて既に展開済みの1列目パネル側面のレールを2列目のパネルに取り付けられたカートが通る形で2列目が展開する。DLPの各パネルにはマーカーが設置され、これを3台のカメラで捉えることでパネルの展開挙動を確認する。

2種類の展開方式は30m級大型平面アンテナの主要技術課題の解決に向けたもので、これは将来の宇宙太陽光発電システム(SSPS)で必要とされる数百メートル〜数キロメートルの大型宇宙構造物構築を見据えたものだ。展開後のDLPは別の2台のカメラを用いて格子投影法でパネルの平面精度を計測する。またパネルの一つには膜状平面アンテナが取り付けられ、地上の小さなホーンアンテナから発射した電波を受信する。

Mt.FUJIはPMのハッチ周囲3箇所に120°間隔で取り付けられる。写真はカバーがかけられた状態。3つのMt.FUJIの視野が重ならないように角度が調整されている。ちなみに手前の黄色い治具の上に見える銀色の部分がロケット側と接するPAFアダプタ。HTV-Xではロケット側のPAFと衛星側のPAFアダプタ、そして両者を固定するクランプバンドにAIRBUS製を採用している。これはレイトアクセス用に大きな開口部を持つPAFを短期間で開発する為だ。
SM上部の曝露カーゴ搭載部(UPCSS)からちらりと見える黒いものが、畳まれた状態のDELIGHTの展開型軽量パネル(DLM)。DLMの右手に見えるフレームはDELIGHTの意図せぬ挙動から機体を保護するためのバンパ。UPCSS上には今回ISSに運ばれる曝露カーゴ・i-SEEPも既に搭載されている。

DLP基部には次世代宇宙用太陽電池・SDXが設置されている。SDXはJAXAと民間企業が開発した超高効率の三接合太陽電池・PHOENIX太陽電池と国産ペロブスカイト太陽電池で構成される。

これら技術実証ミッションでは地上との通信が不可欠だが、ISS補給ミッション中に用いる米国のデータ中継衛星(TDRS)は使えない。そのためHTV-Xでは地上との直接通信機能が追加された。アンテナはISSとの近傍通信に用いられるPROX通信アンテナを用いる。

SM上部の二つの円錐(直方体のカバーで覆われている)がPROX/地上局アンテナ。画面中央の二つの円錐は米国のデータ中継衛星(TDRS)と通信するためのIOSアンテナ。
ISSに到着後、もし何らかの理由で係留までに十分な日照を得られない状態が長く続いても電力を安定供給出来るように、HTV-XではISSからロボットアーム経由で電力供給を受けることができる。これは先代のHTVでは無かった機能だ。係留後はHTV同様ISSとケーブルでつないで電力供給を受ける。通信・電気に関する機能が正常か確認する全機機能試験を行っているタイミングなので、そのための様々な機器・ケーブル類が取り付けられている。

(以下、後日追加予定)