H3ロケット4号機の打上げ前プレスブリーフィング

 H3ロケット4号機の打上げ前プレスブリーフィングが2024年10月28日14時より種子島宇宙センター竹崎展望台のプレスルームで開催されました。
 尚、H3ロケット4号機は当初2024年10月20日の打上げ予定でしたが、その前のH-IIAロケット49号機打上げが悪天候で延びたことで同26日になりました。しかしその後に2段エンジンのバルブに問題が出て交換と点検を行ったため、同30日に変更となっていました。この2024年10月30日の打上げについても天候不良により延期になることが冒頭で発表されています。
 (※一部敬称を省略させていただきます)

・登壇者
 JAXA 宇宙輸送技術部門 H3プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 有田 誠
 三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 H3プロジェクトマネージャー 志村 康治

・打上げ延期について(有田)
 JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、種子島宇宙センターからH3ロケット4号機によるXバンド防衛通信衛星「きらめき3号」の打上げを2024年10月30日に予定しておりましたが、打上げ当日の天候の悪化が予想されるため、打上げを延期することにいたしました。
 なお、新たな打上げ日につきましては、決定し次第お知らせいたします。
 という事で、残念ながら天候の悪化により延期という事にさせていただきたいと思います。また天候の件につきましては資料の中でご説明したいと思います。

 (※このブリーフィング後の10月30日に打上げ予定日が2024年11月2日になった事が発表されています。しかし10月31日になってこの11月2日も気象条件が整わない事が予想されたため、改めて2024年11月4日の打ち上げ予定に変更となっています)

・ミッションの概要について
 ・ロケット及びペイロードの名称
  ロケット : H3ロケット4号機
  形態 : 22S(LE-9エンジン×2基、SRB-3×2本、ショートフェアリング)
  ペイロード : Xバンド防衛通信衛星「きらめき3号」
  ※H3ロケット3号機とは基本的にペイロードの違いのみ。ただし後述のロングコーストGTOミッションに向けたデータ取得のための変更はあります。

 ・飛行計画
  ・H3ロケットとしては初となる静止トランスファ軌道(GTO)への衛星投入を行います。
  ・衛星分離後に将来のロングコーストGTOミッションを見据えたデータ取得を行う予定です。
  ・第1段エンジン燃焼フェーズにおいて、スロットリングを行う。(※3号機と同様)

 ・第2段エンジンバルブ閉作動時間既定値外れ事象について
 (※11月22日に発表された打上げ日再設定の原因)
  ・事象:射場でのロケットの機能点検において、第2段エンジン(LE-5B-3)の燃焼室冷却バルブ(CCV)の作動時間が一時的に規定を超過する事象が発生。その後の複数回の機能点検により規定値内に回復し、事象は解消した。一時的ではあったが原因を調査する必要があるという事で、このバルブ周りの点検を実施した。
  (※この前に行われていたエンジン領収燃焼試験と工場での機能点検では問題なかった)
  ・原因:CCVを駆動するためのヘリウムガス系統内の継手シール部から発生した微粒子が、バルブ駆動を制御するためのPNP内の電磁弁の中で集積し、その作動に一時的に影響を与えたものと特定しした。
  ・対策:原因となった部品(シール)及びその影響を受けた可能性のある部品(CCV等)を交換し、機体内の類似個所の点検を実施したところ、微粒子が見出されるバルブがあり、それらも交換した。またCCVに繋がるヘリウムの供給ラインも交換し、PNP自体も交換した。
   水平展開として機体の方にも同じような継手を使っている箇所があるので、こちらの方は点検しました。その結果、こちらの方は問題無いことが確認できています。
   これらの一連の作業を10月25日までに実施して完了し、今は打上げに向けて準備が整っている状態です。

  ※CCV(Chamber Cooling Valve):燃焼室を冷却する液体水素のラインを開閉するバルブ。ヘリウムガスで駆動する。
  ※PNP(Pneumatic Package):バルブ駆動用のヘリウムガスを供給する装置。

 ・打上げ当日のスケジュール
  ・3号機までに機体に推進薬を充填するプロセスが大分安定してきたので、打上げ前日(L-1)の作業から打上げまでの時間を1時間ほど短縮した。
  ・前日の21時から機体移動の準備を開始し、当日午前1時から機体をVABからLPに移動し、推進薬充填の準備を行い、午前7時頃に第2回のGO/NOGO判断を行い、3km圏内の総員退避が可能であること、機体に推進薬を充填できる準備が整っている事を確認して、機体に推進薬を充填することを開始します。機体への充填と機能点検が十分に進んで、ターミナルカウントダウンという所がそれですが、これに載っている4時間の予備時間はそのままですが、ここで問題なく機体の準備が出来ている事が確認できたら、X-60分頃に第3回のGO/NOGO判断を行い、最後のターミナルカウントダウンに入ります。そして15時46分のX-0を迎えるというスケジュールになっています。

 ・カウントダウンシーケンスで変更があり、4号機のX-33秒のフレームデフレクタ冷却開始が、3号機まではX-53秒だった。これは今回からブローダウン方式の注水設備に変更したため、作動タイミングを見直した。他は3号機までと同じ。

 ・注水設備の変更
  ・フレームデフレクタ冷却水の注水設備を、従来のガスタービンポンプ方式からブローダウン方式に変更した。
  ※ロケットからの高温高圧の燃焼ガスが噴出を受け止めて噴流の方向を変え、水平あるいは上方向に流すための耐火コンクリートの壁をフレームデフレクタと呼ぶ。ロケットの燃焼ガスは温度が非常に高く、耐火コンクリートでも冷却してあげないとやられてしまうため、ここに大量の水をかけてデフレクタを保護するための注水設備。
  ・H3ロケット3号機までとH-IIA/Bではガスタービンポンプを使用。ジェットエンジンと同じような仕組みで動くガスタービンエンジンでポンプを動かし水を送り込む。性能は優れているが、機械としては結構複雑なもので、過去に不具合が起きた事もあった。
  ・4号機以降は水のタンクを窒素ガスで押す、いわゆるガス押し式で加圧して水を送り込む。基本的にはバルブが開きさえすれば水が流れていく極めてシンプルな形で、運用の確実化を図るために導入した。ただしガスタービンポンプ方式よりもタンクの大きさにより流せる水の量が決まってしまう、水の量が少し減っているという事もあり、タンク容量の制約のため、注水開始を20秒ほど後ろ倒しにした。

 ・ロングコーストGTOミッションを見据えたデータ取得
  ・衛星分離後、2段機体のコースト(慣性飛行)中に推進系等のデータを取得する。液酸/液水を搭載した状態のタンクや配管、エンジンの中がどういう状況になっているかを調べるためのデータを取得する。
  ・遠地点が3万6千キロにもなる軌道に入っており、地上局との通信距離が長くなるため、機体にはハイゲインアンテナを追加搭載している。
 
  ※ロングコーストGTOミッションについて。
   ・静止衛星は、ロケットにより静止トランスファ軌道(GTO)に投入され、その後、衛星自身の燃料を消費し、静止軌道(高度36,000km)まで飛行する。
   ・赤道直下に打上げ射場がある場合(0度)に比べ、種子島からの打上げでは28.5度の軌道傾斜角が付くため静止軌道への到達に必要な衛星燃料量が大きくなる。
   ・これを緩和し衛星の消費燃料量を低減させるため、ロケットが宇宙空間を長時間飛行(ロングコースト)し、2段エンジンを着火(再々着火)することで、衛星を「静止軌道により近い軌道」まで運ぶ。
   ・これで衛星の寿命を延ばせるが、ロケットはこれまでよりも遠い所まで飛ぶ必要がある。この間、ロケットがどのような状態になっているかというデータを今回取得する。
   (※今回はデータ取得のみ。衛星は分離した後で、再々着火も無し)

  ・主要打上げ制約条件より、これまで掲載されていなかった条件。
   『雲底高度:射点近傍の雲底高度が450mより高いこと』
   (※条件自体は1号機から存在)
 
  ・気象状況について
   ・打ち上げ予定の10月30日は雷、強風、こういったものが付いている状況です。
   ・雷が来るという情報があるとロケットの作業を中断しないといけない。
   ・強風が吹くとロケットの移動や発射に影響する可能性がある。
   ・今回、延期を決めた一番の要因は制約条件の中で、飛行中において機体が空中放電(雷)を受けないことが制約になっている。つまり雷を発生させるような雲が飛行経路上に無いことが条件になるが、30日の予想を見ると雷を発生させる可能性のある氷結層がかなりの厚さで発生する確率が極めて高い事が判りました。このため残念ながら打上げを見送ることとさせていただいた。31日も天気(予報)が良くない、1日も雨や雷の予報があるため、今日の段階では新たな打上げ日については設定する事が出来ませんでした。決まり次第、皆様にお知らせさせていただきたいと考えています。

・質疑応答
MBC・延期になったが、世界の宇宙輸送ビジネスが激化する中で、衛星の受注に後れを取る可能性はあるか。
志村・確かに少しでも早く打ち上げる事が衛星さんにとって望ましい事だが、天候による延期というのは、(H-IIAロケット)49号機は長かったですけども、数日の範囲という事で、それを焦るよりも無事に衛星を打ち上げるという事が期待されていますので、早いに越した事は無いと思いますが、受注に対してこれがネックになるという事は直接的には無いと考えています。

読売新聞・ロングコーストGTOミッションについて、(H3の)4号機では衛星を分離した後にデータ取得をするが、ここで取得したデータはどういう風に実際のミッションに活かされるのか。これが行える事で商業受注にどういう役割を果たすのか。
有田・どういうデータを取るかについて説明致します。やはり3回目の燃焼を行うというのがロングコーストGTOミッションのいちばん大事なポイントになります。エンジンに着火出来る状態にあるかどうかというのは、タンクの中の燃料や液体酸素、こういったものがどういう状態にあるのかというのがとても大事な情報になります。タンクだけでなく配管も含めて、こういった所の温度や圧力といったものが長時間、5時間くらいあるのですが、宇宙空間で太陽に直接照らされるような環境、それから高真空、こういった状況でロケットの中がどういう変化を受けていくのか、解析はいろいろやっているが、実際の宇宙空間でどうなるかといデータをとって、その解析の確からしさ、そういったものを確認していく。この飛ばし方をETS-9(技術試験衛星9型)の打上げの時にはこのやり方をとろうと思っていますので、そんなに遠くない将来に考えておりますので、それを確実に仕上げるという意味で今回のデータ取得は非常に重要なものだと考えています。
志村・衛星受注について、これは非常に重要なデータがとれるという事で、我々としても凄くありがたい事だと思っています。より静止軌道に近いところまでロケットが運びますので、衛星側が静止軌道に入れるまでの燃料を節約できるという事で、そういうメリットがある。最近では電気推進の衛星が増えていて、より一層軌道に上がるまで時間がかかるので、そういった意味でも大きな効果がある。H-IIAでも同じようなチャレンジをしていて、29号機でカナダのTelesatという会社さんから衛星(※通信放送衛星Telstar 12 VANTAGE)を受注した時にこのような飛ばし方をした実績もございます。非常に貴重なデータと考えております。

読売新聞・世界のロケットでは当たり前に行われているのか、それともH3が特徴を打ちだそうとしているのか。
志村・世界にもこういう事が出来るロケットがいくつかございます。判りやすいのはヨーロッパのアリアンは赤道から打ち上げますので、あまりこういった事を使わなくてもより静止軌道に近いところというメリットがございます。逆にロシアのロケットは緯度が高く、より静止軌道に遠いのでこういったものはかなり頻繁に使っています。といった事で世界でもいくつかのロケットがこういう技術を持っています。日本も緯度が30度くらいからの打上げなので、こういう技術は非常に重要という事になります。

フリーランス鳥嶋・今回成功すれば商業打上げに弾みが付くが、商業の静止衛星については需要が若干減ってきている現状ですとか、かつては大型化していたが、今は小型の静止衛星が出て来ているなど、市場が変化している中で、静止衛星の市場がこの先H3が打ち上げる10年20年でどのように変化していくか。それを踏まえてどのようにH3を戦わせていくのか。
志村・市場について、静止衛星ミッションは、今この瞬間は減り気味です。低軌道でSpaceXがスターリンクを沢山上げているような使い方が出て来て、今この断面で見ると減り気味なのですが、これが無くなるかというと、まだ判らない事ではあるがそうではないと思っていて、静止軌道と低軌道を組み合わせたような、そういう世界が今後広がっていく可能性が十分にあると思っています。ですので今回の技術を手に入れる事は十分に意義があると考えています。これ以外にも低軌道に割と小さい衛星を沢山撒く、コンステレーションといいますが、そういった事も今世の中でかなり行われていますので、H3としてもそういった対応についてJAXAさんと連携して進める計画検討を進めているところでございます。

共同通信・ロングコーストだけでなくGTOも今回初めてだと思うが、初めて静止トランスファ軌道に上げるのと、成功すれば3回連続という事で、次の基幹ロケットとしてどういった位置付けの打上げになるのか。
有田・H3はもともと政府の衛星を打ち上げるための太陽同期軌道への打上げ、それから民間の商業衛星を打ち上げを主たるミッションとするGTOへの打上げ、これを大きな2本の柱として開発を立ち上げました。市場の変化等もございますけども、やはり2つの種類の軌道への打上げが柱になるという大きな所は変わっていないと思っています。ですのでH3の開発の中でGTO打上げ、2号機3号機からの連続成功という形でGTO打上げに成功するというのは、まさにH3ロケットのひとつの仕上げという意味で非常に重要なミッションだと考えているところです。

産経新聞・2度目の延期の原因について、バルブの値が基準から外れる状態になっていた。この現象自体は後から繰り返す事で解消されたが、もし基準を超えた状態で解消しないまま打ち上げられた場合は何が起きていた可能性があるか。正常な飛行に影響を与えるものだったのか。軽微な異常だったのか、あるいはあのまま上げていたらまずかった異常なのか。
有田・今回の事象は解消はしていたが、私共としては同じような事が起きると、その程度が悪くならない保証が無いという所もあって、万全を期して対策を打ってまいりました。この事象がフライトの時に起きたらどうだったのかという事につきましては、結果的に申し上げるとミッションへの影響は無かったと考えています。といいますのもCCVというのは、もともとメインパルプが閉まった後で、ゆっくりと閉まっていく、燃焼室を急激に冷やすための液体水素が急に無くなってしまうと燃焼室が熱くなってしまうので、ゆっくり閉じて冷却の水素が急に無くならないようなシーケンスにしております。ですので多少遅れ時間が長くなっても直接的には影響は無かったのではないかと考えています。ただやはり、じゃあこの規定は何かという事になりますが、これは正常な動作という意味では基準を設けておりましたので、異常と判断して対策を打ったというものでございます。

産経新聞・安全のため基準を厳し目にして、それに該当したので万全を期した対策をとったという事か。
有田・はい、ご理解の通りです。

産経新聞・週間気象情報によると3日と4日は雷の予想が無い、2日はあるという事で、機体移動を考えると3日の打上げは難しいと考えるが、4日はまだ打上げには良い条件では無いということか。
有田・今私達を悩ませているもののひとつが台風21号がございまして、今の状況としては西の大陸の方に進んでいる状況ですが、11月1日ぐらいに日本の方に進路を変える可能性が予測されています。この動きが11月1日以降の気象に影響を与える可能性があって、1日以降の予報の精度が必ずしも安定していないという状況でございまして、今、2日に打てるのか3日に打てるのか4日に打てるのか、この辺りについては私共としてもはっきりした見通しが立っていないというのが現状でございます。

NHK・今回のシーケンスについて、配付資料のスロットリング(17P)の説明は4号機のシーケンスと思っていいのか、それともあくまで説明用の参考値なのか。
有田・これはGTOに向けての一般的な例として示したものですが、4号機も概ねこういった飛び方をすると考えていただいて結構かと思います。

NHK・衛星分離の時間について、衛星の性質から難しいと思うが大体どれくらいか。
有田・具体的なシーケンスについてはお答え出来ない状況でございます。

JSTサイエンスポータル・ロングコーストについて、当時は高度化H-IIAと呼んでいて、それと同じ事をH3でも行うということか。また高度化H3とは呼ばないということか。
有田・H3の場合は高度化というのは宇宙開発利用部会でも説明させていただきましたが、最終的には2段の強化といったような事で考えておりますけども、このロングコーストGTOへの対応については、当初からH3の機能として織り込もうとしているものでして、H-IIAの時には高度化として新たに取り組んだが、H3では最初から織り込んで開発しているとご理解いただければと思います。

JSTサイエンスポータル・H3では最初から織り込んでいるので高度化とは呼ばないという事か。
有田・その通りです。

JSTサイエンスポータル・H3に実際にペイロードを積んでロングコーストで打上げるのは、今現在でどれか。
有田・技術試験衛星9型(ETS-9)の打上げでこちらの軌道を想定しています。時期については決まっていません。

朝日新聞・静止衛星の打上げはH-IIAでは何度も打ち上げているがH3では初めて。3号機の時と比べてGTOへの投入というところで、高度や衛星に与える速度などに何か違いはあるのか。
有田・2号機や3号機の時には逆方向に噴射するという事で、減速のための第2段の着火というのはやっておりました。デブリ化防止のためのコントロールドリエントリのための再着火というのをやっておりました。主ミッションが終わった後の状況ですので、残った燃料が非常に少ない状態での再着火ということを実施しておりました。一方、GTOミッションにおいては、同じく再着火をするのですが、第2回の燃焼で静止トランスファ軌道という長楕円の遠地点3万6千キロメートルに到達するような長楕円の軌道に入れるという事で、ここで非常に大きな速度を出すという事になります。このため残液量を十分に確保した状態で、2段の燃料が沢山残っている状態で、2段エンジンに着火をするという事になります。再着火する事自体は同じですが、ロケットの状態はかなり違うというところで、ここのところはH3としては初めて臨むという事になります。基本的にH-IIAでも十分実績のあるところですので、私共としては自信を持って臨めると考えておりますけども、事実としてはH3で初めてやることになるのは確かでございます。

朝日新聞・衛星の投入高度は言えないかもしれないが、だいち3号や4号と比べて分離高度に大きな違いは無いということか。
有田・詳細な高度は申し上げる事ができないですが、GTOという事ですので、いわゆる静止軌道に接しているような軌道である必要がある。ですから遠地点は静止軌道の3万6千キロに接するような軌道という事で、遠地点が非常に高い長楕円の軌道になっています。それが今回の4号機の軌道です。一方、2号機と3号機で打上げただいちの軌道は太陽同期軌道で、地球の南北を回って、なおかつ高度としては400~500キロの軌道という事で、高度としてはかなり低い軌道という事になります。
 (※H3の2号機は性能確認用ペイロードVEP-4と、小型副衛星を搭載していました)

朝日新聞・GTOの場合も近地点は数百キロと思うが、今回GTOに投入するから普段より衛星を分離する高度が高いという訳ではないという事か。
有田・おっしゃる通りで、今回はロングコーストGTOではございませんので、衛星分離高度としてはそんなに高い訳ではございませんが、その時の速度はだいぶ違っているという認識でございます。

共同通信・H3の高度化の話が出たが、国の議論でもロケットの性能を柔軟に見直すブロックアップグレードというものが示されていたが、柔軟にその時々で判断するという事なのでまだ明確に話すのは難しい段階だと思うが、あらためて今後の方向性がどんなものになるのか。また現場でどう取り組みたいか、意気込みの部分をお願いします。
有田・現段階としては高度化は3段階を考えていて、第1段階では衛星のトレンドが変わってきているという事に柔軟に対応していく必要があるということで、例えばコンステレーションへの対応能力を増やすといったような、要はお客さんを向いた側の改良をしていくというのが第1段階です。第2段階としてはこのロケットの信頼性やコスト、こういったところの課題があれば、こういったところを改善していく。第3段階は、このH3ロケットの能力をさらに高めて、よりお客様の需要に応えてゆくといった事。具体的に言うと第2段ロケットを強化してH3ロケット全体の能力を上げていく、こういった事に取り組みたいと考えています。取り組みについては、H3は前プロマネの岡田が言っていましたが式年遷宮という事で20年に一度の大開発という事でやったが、それですと人材の引き継ぎができる最後のチャンスみたいな感じで、ヒヤヒヤしながらやっていたところがあったが、それではさすがにいかんだろうと今回よく判りました。という事でブロックアップグレードという手法をとりながら開発を続けていくという事で、このH3ロケットを磨き続けるということで技術力をJAXAも三菱重工さんをはじめメーカーの皆さんも技術力を維持していく、それを続けていくために高度化を打ち出しているという側面がございます。私としてはこれをやはり自ら牽引するというより、若い人達に自ら先頭に立ってもらって前に進めていけたらと思っています。
志村・気持ちとしては全く同じ気持ちで、JAXAさんにも声をかけていただいて、我が社もなるべく若い人に新しいロケットの経験をしてもらうようにということで進めております。

共同通信・30形態やLE-9のType2はブロックアップグレードの一環という認識で良いか。それともその手前の段階にあるのか。
有田・第1段のLE-9につきましては、今はType1Aという暫定的なエンジンで、H3の最後の仕上げとしては30形態の実現と、LE-9を最終的な目標の性能まで仕上げる、というこの二つは実はH3ロケット本体のプロジェクトの大きな課題・使命だと思っていまして、ここは高度化の前に私の責任で仕上げないといけない範囲だと考えております。

共同通信・ロングコーストGTOの件で、プレスキットの中の仕様の中でΔVがなるべく小さくなるような所に運ぶように開発したとあるが、それとロングコーストというのはどういう関係なのか、全く別の話なのか。今回のGTOとロングコーストで、どの部分でロケットとしてのミッション完了となるのか。
有田・衛星側のΔVをできるだけ小さくするというのは、H3の当初からの目標として捉えていた事で、まさにロングコーストGTOはH3の最初からの大きな目標のひとつです。どこで分離するかについては、通常のGTOですと高度としてはあまり高くない地球に近いところで衛星を分離してロケットとしては役目を終えます。一方ロングコーストGTOの場合は、遠地点付近で再々着火して(静止軌道に近い)軌道に投入した後で衛星を分離する。このように地球の近くで分離するのが従来のGTOで、ロングコーストになりますと地球から遠く離れた3.6万キロに近いところまで衛星を運んでいってそこで分離をするという違いがございます。

NVS・打上げ時間は延期毎に数分ずつ後ろにウインドウがずれていっているが、1日あたりどれくらいずれるのか。
有田・2日に1分くらい遅れていくイメージだったと思います。日々のウインドウも、17時30分はクローズする最後の時間ですので、毎日のウインドウというのはそれより手前に来ていますので、そこもあわせてずれると思います。

NVS・実際はそんなに長くないという事か。
有田・そうですね、17時半までは無いです。

NVS・ただ数分というウインドウではなくて結構長いのか。
有田・そうです。日々のウインドウがSSOのだいちですと5分くらいしかなかったのが、今回は1時間以上ございますので、その点では余裕がございます。

鳥嶋・ロングコーストについて、H-IIAでは29号機くらいで、他は通常のGTOで打ち上げられたと思うが、H3でロングコーストが出来るとなると打上げ能力が底上げされるのでそれがデフォルトになっていくのか、それとも衛星分離まで長いといったデメリットがあるので、それがデフォルトになっても通常のGTOを選ぶお客さんがある程度いるのか。H3では通常のGTOとロングコーストでどれくらいの割合になっていくのか。
志村・それはお客さんの方の衛星の作り方によって決まってきます。ロケット側の都合でどうのこうのというのは難しい面があります。衛星さんの作り方としてはタンクの大きさがバスとしては決まっていて、それにどれくらいのミッション機器を載せたいかで大体の重量が決まります。それとロケットの組み合わせをした時に、遠くまで運んだ方が得なのか、それとも近くでやった方がいいのかは、ロケットと衛星の組み合わせでどちらが良いかが変わるので、一義的にどっちになりそうとかそういうものでは無く、相談によって決めていくことになると思います。

鳥嶋・H-IIAのロングコーストの話があった当時はSpaceXではなくアリアンが主流なので、そちらの衛星が主流なのでH-IIAもそれに合わせたという話だったが、市場の変化とかを踏まえてどっちが多くなるかの予測はされているのか。
志村・非常に難しい。SpaceXはロングコーストはあまりやらない。ただ非常に価格が安いので、遠くまで運べるとかどうこう言う前に価格として優位性を保っているところがあると思います。H3がそれに対して何でお客さんに対してアピールするかというものの一つとして、そういう打ち方も出来ますというメニューを準備出来るというところが我々にとっては大きな利点かなと思います。

不明・今回の成功の定義。今回は衛星を分離したところまでで成功と呼んで、「きらめき3号」自体は自身の推進剤で静止軌道まで行くという事で、そちらについては特段成功には含めていないという認識か。
有田・ロケットのミッションとしてはGTOに投入して衛星を分離するところまでですので、ロケット側としてはそこまでで成功かどうかを判断致します。

時事通信・ロングコーストで、メインミッションは衛星の分離までだが、データ取得は噴射はしないが数時間ロケットを飛ばして熱収支などを見るので、かなりの時間がかかるという理解で良いか。
有田・ご理解の通りで数時間かかります。

時事通信・H-IIAの高度化の時には、予冷の方法を変えるとか、バッテリを増やすなどいろいろ付けていたが、H3でも高度化で上げるという時には追加で付けるものがあるのか、それともいくつかは高度化も視野にして改良しなくて良い物もあるのか。
有田・当初H3はロングコーストを標準仕様にしようと考えた時期もあるが、やはり需要の動向やコストの関連も踏まえ総合的に考えて、ロングコーストGTOに必要な物はその時に追加する考え方に変えた部分がございます。ただ電池については十分な容量を確保していて特別に追加することはございませんが、一部の機器については、ロングコーストのために追加する必要がある。

時事通信・延期の原因になったシール部分の微粒子は製造工程でやむを得ず出てくる物なのか、それとも品質管理上の問題があってたまたま見つかったというものなのか。
有田・このような事象というものは、これまであまり経験したことがないというものでございまして、この辺りの原因については現在調査中という状況です。

NHK・ロングコーストのデータ取得が今回の4号機では数時間という事だったが、ロングコーストの場合は再々着火までどれくらいの時間になるのか。また4号機の2段について、データ取得を終えた後の行方はどうなるか。
有田・大体4~5時間です。この長楕円のGTO自体の周期が大体9時間とかそういったレベルですので、その半周分の4~5時間がこの遠地点に到達するのにかかる時間とご理解いただければ良いと思います。今回はGTOに入れるので、第2段はその軌道を暫くは周回するという事になります。

NHK・天気について1日以降がなかなか見えないとのことだが、今出ている天気予報の場合だと厳しいようだが、今のデータだとどうなのか。
有田・難しいご質問です。どこも△(雷・強風・豪雨等)がついていますが、今のこの状況ですと、なんとか3日とかそういった所は希望を見出したい感じかなと思いますが、好天が前倒しになる可能性もゼロでは無いと思いたいところもございますので、注視して参りたいと思います。

NVS・延期の原因となった電磁弁について、電磁弁に微粒子が付着したことによって、ヘリウムの圧の立ち上がりが影響を受け、動作が緩慢になったという理解で良いか。
有田・ニューマティックパッケージの中にある電磁弁の動く部分に微粒子がたまってしまって、動きに影響を与えてしまったと考えています。

NVS・作動時間の規定外というのは動作が緩慢になったという理解で良いか。
有田・おっしゃる通りで電磁弁の動きが緩慢になって、駆動するヘリウムの抜けが悪くなったと考えています。そのために閉作動が遅れたと考えています。

MBC・打上げに対する意気込みをお願いします。
有田・3号機の時にも申し上げました通り、連続成功があるのみだと思っています。それから初めてのGTOに向けてH3ロケットを飛ばすという事で、なんとしても成功させたいと思います。そして今回は防衛省さんの衛星に乗っていただくが、失敗してしまった1号機の「だいち3号」には防衛装備庁さんのセンサが一緒に搭載されておりまして、失敗に伴ってこのセンサも宇宙空間に届けることが出来なかったという、非常に苦い、大変申し訳ない事でありました。ですので今回は防衛省さんのミッションをしっかり仕上げさせていただいて、その時の雪辱を果たしたい。それでそのセンサが返ってくる訳ではありませんけども、なんとか雪辱を果たしたいと考えているところです。
志村・私も同じような感じでありますけども、今日話が出ました通りGTOというのは機体として大きな変更は無いですし、シーケンスもそれほど新しい事がある訳ではないが、やはりロケットは新しいことをやるのは一つの大きなチャレンジですので、非常に緊張感を持って臨んでいるというのと、H3がこれでまた新しい一歩を踏み出すという事で期待感もございます。そういった打上げで防衛省さんの重要な衛星を打ち上げますので、なんとか無事に軌道に送り届けたいと思っております。

ブリーフィングは以上です。

以下は配付資料より抜粋。(提供:JAXA)

気象情報は2024年10月28日のものです。