H-IIAロケット47号機打上げ経過記者会見

 H-IIAロケット47号機は2023年9月7日午前8時42分11秒(JST)に種子島宇宙センターから打ち上げられ、XRISMとSLIMを所定の軌道に投入し打上げは成功しました。同日に打上げ経過記者会見が開催されています。
(※一部敬称を省略させていただきます。また肩書等は会見時のものです)

・第1部 登壇者
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 審議官 坂口 昭一郎
文部科学省 大臣官房審議官(研究開発局担当) 永井 雅規
宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事長 山川 宏
三菱重工株式会社 執行役員 防衛・宇宙セグメント長 江口 雅之

・打ち上げ結果(江口)
 三菱重工業株式会社は、種子島宇宙センターから2023年9月7日午前8時42分11秒(日本標準時)に、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「X線分光撮像衛星(XRISM)」及び「小型月着陸実証機(SLIM)」を搭載したH-IIAロケット47号機(H-IIA・F47)を打ち上げました。
 ロケットは計画どおり飛行し、打上げ後約14分09秒に「X線分光撮像衛星(XRISM)」を、約47分33秒に「小型月着陸実証機(SLIM)」をそれぞれ正常に分離した事を確認しました。
今回のH-IIAロケット47号機打上げ実施にご協力頂きました関係各方面に深甚の謝意を表します。どうもありがとうございました。

・登壇者挨拶(坂口)
 内閣府特命担当(宇宙政策) の高市大臣から談話が発表されており、それを読み上げさせていただきます。
 本日、H-IIAロケット47号機の打上げが成功し、「X線分光撮像衛星(XRISM)」及び「小型月着陸実証機(SLIM)」が所定の軌道に投入されました。
 H-IIAロケットは、我が国が技術を蓄積してきた、我が国の宇宙活動の自立性確保と国際競争力強化のために極めて重要な基幹ロケットです。
 今回、打上げ成功の実績を重ねることができたことを誇らしく思います。
 我が国は、衛星によるX線観測の分野に実績を有しており、XRISMは、日本が中心となって米欧と協力し、X線による銀河団の観測を通じて、宇宙の構造や進化の解明を目指すミッションです。また、SLIMは、我が国として初めての月面着陸を目指すものであり、SLIMにより得られる技術やデータを活用し、我が国としてアルテミス計画を始めとする今後の宇宙探査に貢献してまいります。これら2つの探査機のミッションが成功し、我が国の宇宙科学・探査の発展と国際協力に寄与することを期待します。
 内閣府特命担当大臣(宇宙政策)として、今後も我が国の宇宙開発利用を精力的に進めてまいります。 (※内閣府特命担当大臣(宇宙政策) 高市早苗)

・登壇者挨拶(永井)
 本日は誠にありがとうございます。H-IIAロケットにつきましては今回41機の連続の成功ということでございます。基幹ロケットとして着実に実績を積み上げてこられたことを大変文科省としても嬉しく思っているところでございます。そして今回打上げたXRISMとSLIMにつきましては先ほど内閣府からご紹介がありました大臣の談話にございます通りですけども、今後の宇宙科学、また探査の発展に寄与することを文科省としても大いに期待しているところでございます。そして今後の事でございますけども、次世代の基幹ロケットであるH3ロケットの原因究明に一区切りがつきましたので、次の打上げに向けて取り組んでいるところでございます。もう一つはイプシロンSロケットでございます。これらの打上げに向けて着実に取り組み、我が国の宇宙開発の発展に貢献出来るように引き続き関係機関と共に力を合わせて尽力して参る所存でございます。尚、永岡文部科学大臣でございますが、今回の打上げに非常に期待されておりましたけども、現在韓国の国際会議に出張中ということでございまして、この段階で談話が間に合ってございませんけども、明日以降にあらためて大臣にご報告して大臣から談話を出させていただくことを考えているところでございます。

 ※翌日の文部科学省の発表より
 (※昨日、H-IIAロケット47号機の打上げに成功し、搭載していたX線分光撮像衛星(XRISM)及び小型月着陸実証機(SLIM)が所定の軌道に投入されたことを確認いたしました。今回の打上げ成功により、H-IIAロケットは本年1月に打ち上げられた46号機に続いて41機連続での打上げ成功となり、我が国の基幹ロケットとして着実に実績を積み重ねていることを喜ばしく思っております。今回打ち上げたXRISMは、日米欧の国際協力により、地上では観測困難なX線を軌道上から観測し、宇宙の構造形成等に関する謎の解明に挑むものです。また、SLIMは、高精度の月面着陸を実証し、将来の宇宙探査に必須となる共通技術の習得を目指すものです。これらを通じて、我が国の宇宙科学・探査が人類の知の拡大に貢献することを期待しております。文部科学省としては、今後も更なる国際競争力の強化を目指し、次世代の基幹ロケットであるH3ロケット及びイプシロンSロケットの打上げに向けて着実に取り組み、我が国の宇宙開発利用の発展に貢献できるよう、関係機関とともに尽力してまいります。令和5年9月8日文部科学大臣 永岡 桂子)

・登壇者挨拶(山川)
 先ほど三菱重工殿よりX線分光撮像衛星XRISM及び小型月着陸実証機SLIMが所定の軌道に投入されたと伺いました。XRISMそしてSLIMがそれぞれのミッション実現に向けまず一歩目を踏み出せたことに安堵しております。H-IIAロケット47号機は日本の基幹ロケットが置かれている状況を踏まえた中での打上げであり、本日の打上げ結果につきましては三菱重工殿をはじめロケットの製造運用に携わる多くの企業・関係機関の皆様のご尽力の賜物と考えております。皆様のご尽力に敬意を表し、この場をお借りして御礼を申し上げます。そして打上げをご支援いただいています地元種子島の皆様、関係機関の皆様、そしてこれまで叱咤激励をいただいております国民の皆様に対しまして、打上げ成功のご報告が出来ることを私としましても大変嬉しく存じます。皆様のご支援にあらためて感謝を申し上げます。同じく基幹ロケットでありますH3ロケット、そしてイプシロンロケット共に引き続き対策等を進めております。日本のロケット技術の信頼回復に向け気を引き締め、確実な対応を図っていく所存であります。冒頭に述べました通り、X線分光撮像衛星XRISM及び小型月着陸実証機SLIMは宇宙での運用を開始しております。(会見場正面に)向かって右側に模型がありますけども、XRISMはX線天文衛星ASTRO-Hが担っておりましたミッションを引き継ぎ、超高分解能のX線分光による宇宙物理の課題の解明を早期にかつ確実に回復することが目的です。またXRISMプロジェクトにはNASAそして欧州宇宙機関ESAをはじめ多くの国内外の大学・研究機関及び研究者が参画しております。国際協力ミッションの名の通り世界に開かれたX線天文台として観測データを国内外に提供する予定であります。X線天文学のみならず様々な分野に渡る宇宙物理を推し進め、物理学の広範な発展に資するべく取り組んで参ります。もう一つ、SLIMにおきましては、月への高精度の着陸技術、いわゆるピンポイント技術に関する技術の実証と、軽量な月惑星探査システムの実現を目指しています。これらの技術は火星衛星探査計画MMXや、月極域探査計画LUPEX、そして日本も参画する月面探査プログラム・アルテミス計画など、今後の国際的な月惑星探査活動の推進に必要であり、同分野における日本のプレゼンス向上に貢献して参りたいと思います。両プロジェクトが掲げるチャレンジングなミッションを着実に進めると共に、それぞれが目指す成果創出に向けプロジェクト関係者が高い意識の元一丸となって引き続き気を引き締めて努めて参ります。ありがとうございます。

・質疑応答
日本経済新聞・今回のH-IIAは50機で運用が終わる。このH-IIAが果たしてきてた役割を今現在でどう総括されるか。今後のロケット開発でどのようなポイントが大事になってくるのか。日本としてどこを目指すのか。
山川・連続成功41機という話もございましたけども、正に日本の代表的な基幹ロケットのひとつだと考えております。これまで多々の政府衛星、あるいはJAXA衛星、海外の衛星、大学の衛星を打上げて参りましたので、正に日本の宇宙開発をリードしてきた、それを実現させるために必須のロケットだと考えております。残り3機ということになりますけども、引き続き確実に三菱重工殿と連携しながら進めていきたいと考えております。それからH3ロケットの開発でも大きな目標であったのは、ひとつは国際競争力という観点なんですけども、それも大事なんですけども、もう一つ極めて重要な点というのが、我が国が宇宙にアクセスする自立性を確保するということが極めて重要であると思っておりまして、これは今後のロケット全てに当てはまるものだと思っておりますので、宇宙へのアクセスの自立性、それから国際競争力、コストという観点もそうですし、搭載される衛星ユーザーにとって使いやすいロケットであるということ、それと複数の衛星を同時に打上げる機能ですとか、異なる軌道に投入するとか、様々な技術的な要素というのも当然あるかと考えております。

NHK・今回搭載されているSLIMは日本初の月面着陸を目指しているが、昨今インドが月面着陸を成功したりと、国や民間の間で競争が激しさを増す中で、そういった点を踏まえて、今後の運用にかける思いを伺いたい。
山川・世界中の多くの国、あるいは民間企業を含め、月面着陸に取り組んでいるのは競争という環境という意味では非常にいいことだと思っておりまして、JAXAとしても当然ながらその中で様々な物を実現していきたいと考えております。今回のSLIMがこれまで他の国あるいは民間企業でトライあるいは実現した月着陸と違うのはピンポイント着陸ということで、非常に高い精度で着陸すると言う事であります。約100mの精度を実現する。これまでは月面のうち降りられるところに降りるところだったが、これからは降りたいところに降りるといった事を将来的に実現するために、今回実証を行うということがこのSLIMの大きな目標になっております。ですのでまだ最初の運用を始めた段階ですけども、一つ一つ着実に運用してそれを実現していきたいと考えております。

KYT・衛星2基の分離だけでなく、2段エンジンがしっかり着火してうまく機能したことも安心したことだと自分は思うがその点はいかがか。
山川・一つ一つのシーケンスですね、重要なイベントがいっぱいあるが、どれもドキドキするのが正直なところでありまして、今まで数々の打上げに従事して参りましたけども、今回も同じように一つ一つが非常に緊張感を持って臨んでいて、おっしゃる通り第2段が点火したというのも極めて大きな安心材料だったかなと思っております。ただ、それだけではなくて一つ一つが凄く重要なシーケンスですので、全てがうまくいったことに非常に安堵しております。

共同通信・所定の軌道に2基をきちんと入れられたということから打上げは成功だと認識して良いか。
江口・ご指摘の通り2基とも所定の軌道に投入できております。成功ということであります。

南日本新聞・最近はH3やイプシロンの失敗があり、今回のH-IIAの47号機の打上げは結構重要なものと思っているが、今回の成功が日本の宇宙産業に与える意義について教えてほしい。また今回の打上げはプレッシャーがあったと思うが、それにどう向き合っていたのか。
山川・イプシロンロケットそれからH3ロケットの失敗については大変重く受け止めておりまして、それに対して真摯に技術的な観点、プロジェクトの様々な取り組みの観点から一歩一歩進めているという状況であります。先ほどご紹介がありましたけども、イプシロンロケット、それからH3ロケットの失敗の要因については、イプシロンロケットについては完了していて、H3ロケットについては一区切りがつくと同時に対策の検討をして出来るだけ早くの飛行再開に向けて取り組んでいるという状況でございます。一方でH-IIAロケットについては今年1月に1機打上げていて、47号機が2回目となるのですけども、やはり2つの失敗の後でしたので非常に緊張感があったことは勿論否定はしません。ただし三菱重工さんの技術陣、それを様々な観点でJAXAとしても一緒に取り組んでいる訳ですけども、技術陣が一歩一歩着実に様々な失敗の検討の結果をちゃんと反映させるようにしていたこと、それからあらためて様々な観点で広い視野でシステム全体を見直すということも当然やっておりまして、そういった事が今回の着実な成功に繋がったのではないかという風に思っております。ですので先ほど別の方の質問にお答えしたように、正に今基幹ロケットを現役として引っ張っているロケットですので、残り3機についても着実に行くようにJAXAとしても最大限取り組んで行きたいと考えております。

JSTサイエンスポータル・打上げを成功されたということで、このところ基幹ロケットのトラブルが続いている中で、今回は一際の緊張感とプレッシャーの中での打上げだったのか。今の率直なお気持ちを伺いたい。
江口・H3の失敗もございましたので、関係者は非常にプレッシャーを感じて、一部の反映も含めて取り組んで参りましたので、その中で今日無事に成功できたということは、非常にほっとしているというのと共に、H3のリカバリについて前向きに進めていく決意というか、背中を後押ししてくれるような、そういうイベントであったという風に思っております。

・第2部 登壇者
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント宇宙事業部 技師長/H-IIA打上執行責任者 徳永 建
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 理事/宇宙科学研究所(ISAS)所長 國中 均
宇宙航空研究開発機構(JAXA)/宇宙科学研究所(ISAS) XRISMプロジェクトマネージャ 前島 弘則
アメリカ航空宇宙局(NASA) 天文プログラム・サイエンティスト ウァレリー・コノウトン
宇宙航空研究開発機構(JAXA)/宇宙科学研究所(ISAS) SLIMプロジェクトマネージャ 坂井 真一郎

(※坂井氏はリモートでの参加で右端のモニタ。その隣は通訳の方)

・質疑応答
産経新聞・成功を収めて率直な心境をお聞かせ下さい。
徳永・今の率直な気持ちとしましては、今までH3の状況で打上げの時期を延ばしておりましたこともありますし、天候で直近になってもなかなか打上げ時期を決定出来ない時期も経まして、今回無事このような形で成功に終われた事は本当にほっとしているという気持ちでいっぱいです。

産経新聞・この成功から得られたものは何だったか。
徳永・いろいろございます。H3からの反映という事もやって、これは非常に短い期間の中で達成することが出来た、反映をここに持ち込むことが出来てそれを実証する事が出来た。また私としては初めての経験だが、このような天候の中、打上げのタイミングを得ることが出来たというのは、私としては経験として得られたものが大きかったと考えています。

MBC・当初8月28日で夏休み期間中の打上げだったが、子供の興味関心を引くような打上げだったと思う。延期になって登校日になって学校から見るお子さんもいらっしゃいました。その方々へのメッセージはありますでしょうか。
徳永・前回8月28日に、あのような形で残念ながら打上げを延ばすことになって、夏休み期間中の皆さんに非常に期待させていたところを残念な気持ちにさせてしまったという事での話をさせていただきました。今回、夏休みという期間はずれてしまってこちらでご覧いただくことは出来なかったと思うのですが、皆さんの希望・期待をのせて打上げ出来たということで、これは皆さんの力になれたのではないかと思いますし、私共もそういった形でご提供出来たということは誇らしく思っている所でございます。

読売・H-IIAに機体を預ける形で打上げを見守られて今回成功に繋がったことの率直な感想と、これからクリティカル運用という重要な局面を迎える。XRISMは「すざく」の事例を踏まえるとResolveの冷凍機運転までは予断を許さない部分があると思うが、そういったクリティカル運用に向けた意気込みをお願いします。
前島・H-IIAで打ち上げる事に関して、もう信頼しておりました。結果的に無事に打上げていただきまして非常に感謝しておりますし、安堵しているところもあります。これから正にクリティカルフェーズに入ったところです。まずご報告させていただきたい事がありまして、良い報告をさせていただくことを嬉しく思います。正式には改めてプレスリリースをさせていただくが、本日速報といたしまして、つい先程太陽電池パドルの展開に成功しました。発生電力正常に出ております。という事でひとまず衛星は安心な状態に入っています。太陽捕捉も完了しておりまして、衛星は今安定な状態になっています。これからミッション機器のResolveの冷凍機、今初期の立ち上げは既に完了しております。これから冷凍機のパワーをどんどん上げていって定常運転まで持っていくというのをクリティカルフェーズの中で実施致します。姿勢に関しましては、今はスラスタを用いた太陽捕捉まで行っているが、今姿勢系のコンポーネントのひとつを立ち上げているところでして、クリティカルフェーズの最後のところではリアクションホイールを用いた姿勢制御まで持っていく予定です。それが終わったところでクリティカルフェーズを終了、その後はチェックアウトフェーズに入っていって、機器の機能、衛星の機能を検証していく計画になっています。今のところ衛星は正常に機能しているというところをご報告させていただきます。
坂井・打上げについて、いろいろなご苦労、それから大変なプレッシャーもあったと思いますが、見事に打上げていただきました事を心から感謝したいと思います。SLIMの状況は、これも速報という形になりますが、現状の時点で太陽の方向にきちんと探査機の姿勢を向けて、太陽電池を使って必要な電力の発電を行う、それから地上局から電波を送る、向こうから電波を受け取るという事に関して機能の確認が出来ていますので、最低限探査機が生き延びるために必要な機能については現状で確認が出来ているという状況になっています。このあとクリティカルフェーズになりますが、搭載機器の健全性の確認等を続けながら、次の大きなゲートになります地球を出発するというイベントに向けて、例えばメインエンジンと言われる推力の大きなエンジンの健全性の確認であるとか、あるいはそれを使った実際の軌道変換ΔVを行うことができるのかといった事の確認を行って、大体1週間を見込んでいますがクリティカルフェーズが終了することになると思いますので、その時点で何らかの形でお知らせが出来るのではないかと考えています。

時事通信・3月のH3の失敗から半年でH-IIAの打上げにこぎ着けた。5月の段階で対策を特定できたが、このスピードについてはどういう事が功を奏したのか。
徳永・H3の原因究明、またその途上でのH-IIAへの反映という形がはっきりした段階から、非常に短い期間、衛星様の方におかれましては元々予定していた時期を動かしていただくことになったのはご迷惑をおかけしたこともありますけども、非常に短い期間でこのように出来たのは、やはり皆さんの、JAXA様、我々のパートナーの皆様も非常に協力的に取り組んで精力的な形で乗り越えたということがあって、これが成し遂げられたと考えています。

時事通信・電気系統ということで幅広い方々の応援を得たと聞いているが、三菱重工さんも特別な態勢を組まれていたのか。
徳永・電気のところ特別なチームといいますか形でいろんな部門にまたがって確認をしてまいりました。H3の故障解析を踏まえてといいますか、そこと並行する形で行って、H-IIAのところにも着地点を持って行けたと、そういう事になっています。

ニッポン放送・今回の打上げで技術的取り組みはこれまでと同じと思うが、こういう状況でありますので、心理的精神的な部分でスタッフの方々に対して何か心砕かれた事はあったか。
徳永・やはり我々皆同じだったが、H3の失敗から初めての打上げという事で、しかも対策を打つということで、初めてのコンフィギュレーション、対策した機器を使って打上げるということで、非常に関係者、緊張感そしてプレッシャーを感じながらやってきたところでありました。私からは一つ一つ確実に確認していけばここは絶対に大丈夫になると思うので、そこは見逃さないように一つ一つをしっかり見ていくようにということで、関係者と意識を整えながらやってきたという事で臨んで参りました。

ニッポン放送・つまりコミュニケーションを密に、声かけも密にということだったのか。
徳永・勿論その通りで、意識を共有するためにはコミュニケーションをとってやって参りました。

NHK・SLIMとXRISMの今後のスケジュールを確認したい。SLIMの月への着陸の目処は、前の会見だと1月から2月の間とおっしゃっていたが、打ち上げ延期に伴って後ろにずれるとかがあれば教えて下さい。
坂井・打上げが少しずれましたが、その後の軌道計画については地球を出発する位の間で、今回の遅れについては概ね吸収出来るだろうと今は考えております。現時点の予定としては当初と変わらず年明けの1月から2月になるのではないかと現時点では考えています。

NHK・具体的な着陸の日程が明確に見えてくるのはどれくらいか。
坂井・その辺りについては、このあと地球出発、それから月への軌道投入といった大きなイベントが控えておりますので、その辺りは順番に予定が進んでいくに従って、恐らくどこかで詳しい日程についてもリリースできるようになるのではないかと考えています。

NHK・それは年内なのか年明けなのか。
坂井・打ち上がったばかりですので、そこまでの詳細なところについてはこの場では控えさせていただきます。

※XRISMのスケジュールについて。
前島・打上げ延期に伴う予定の変更はございません。改めてとなりますが、これから3ヶ月くらいをかけて初期段階と称しましてチェックアウトを行って参ります。チェックアウトが終わった後で初期校正検証フェーズと呼んでおりますけども、そこでミッション機器の性能検証を行って参ります。その段階ではNASAとESAと協力してやって参ります。開発段階からNASAとESAとは非常に協力して良い関係を持って開発を進めて参ったが、作り上げたこの衛星機器を一緒になって校正検証もして参ります。それが7ヶ月くらい続きますので、打上げから10ヶ月後くらいからGuest Observations期間がスタートするという事で計画に変更はございません。

JSTサイエンスポータル・今回のXRISMの打上げは、2016年に「ひとみ」が失われたことでの後継機です。今回のX線天文学のためのリカバリですが、NASAとJAXAの間の立ち直りのためのコラボレーションをどのように評価されているか。またX線を通して宇宙を見つめる、エネルギーの高いところの宇宙の謎を解く魅力を伺いたい。
ウァレリー・コノウトン:「ひとみ」の喪失は大変大きなロスでしたが、その後NASAと他のパートナーのコミットメントによって、サイエンスコミュニティと共にXRISMのリカバリミッションを成功させることが出来たと思っています。XRISMはJAXAとNASAの長年にわたるパートナーシップを推進して、またX線天文学の新時代の幕開けになると思っています。XRISMの観測技術は宇宙観測における我々の技術を飛躍的に発展させ、新しい技術は現在のミッションだけでなく今後のミッションにも応用されます。一つの例として、NASAの次期主力天体望遠鏡であるナンシー・グレイス・ローマン宇宙望遠鏡でもJAXAと他のパートナーと協力し活動銀河核や中性子星などの天体に関する問題に取り組みます。こういったミッションに共同で取り組むことで、これまで以上に天体の全体像を描く事が出来ると考えています。今後の協力を楽しみにしています。(※翻訳)

フリーランス林・打上げから分離まで47分と結構長い時間が必要だったがその間の心境と、現在のSLIMの状況は良好ということで、今後の月探査に向けての意気込みをお願いします。
坂井・おっしゃっていただいた通り、分離まで長い時間がありましたけども、ライブ中継でアナウンスがありました通りH-IIAが正常に飛翔しているという状況を聞きながらでしたので、それについては安心しつつ、その後に控えている我々側の運用に対する心の準備をしながら過ごしていた47分間だったように思います。今後の意気込みですが、打上げの前に運用室で話した事になりますけども、我々にとってこの打上げというのは決してゴールではなくて、最終的なゴールは38万キロ先にある月に着陸するという事になりますので、我々にとって本当にやらなければならない事はこれから始まると考えていますので、打上げを成功させていただいたことをきちんと受けて、今度はこちら側が頑張る番だと考えています。

フリーランス林・あらためてXRISMの意義と、SLIMの意義とPR点について伺いたい。
國中・宇宙科学研究所が主催しますロケット打上げ事業というのが実は7年ぶりということになります。この間、宇宙研が主催する日本から打ち上げるロケット・衛星事業がありませんでした。これは説明を要すると思いますが、2016年にASTRO-Hの事故を受けまして大いに反省し、まずこの事故を分析し、再発防止に努めて参りました。新たに見直された開発手順や組織体制をもってこのXRISMの開発を行って参ったという事情があります。そのためにこの7年間に宇宙研が主催する打上げ事業が無かったということになります。私個人といたしましても、2014年のはやぶさ2の打上げ以来9年ぶりの種子島での活動ということになります。この7年間の停滞のために宇宙科学事業が少しシュリンクしたことは否めないというのが率直な状況でございます。しかしここから宇宙科学を、日本の宇宙科学をV字回復させる所存でございますので、引き続きご理解とご支援をよろしくお願いしたいと思います。XRISMにつきましてはASTRO-Hでその能力の片鱗だけ確認することができました。それをまさに駆使して宇宙科学、特にX線天文の領域で華々しい成果を期待しているものであります。またSLIMにつきましては、月への着陸を今世界各国が競争状態で目指しております。日本として、JAXAとしてのこれが月表面着陸への一歩になると考えています。ここでピンポイント着陸技術を獲得した上で、更なる深い難しい月着陸を目指し、月表面での活動を発展させると共に、この技術はそのまま火星表面着陸にも応用できると考えています。この流れは米国が主導するアルテミス計画への日本からのコントリビューション寄与として大きな布石になると考えていて、SLIMの活躍を大いに期待しているものになります。

共同通信・H3の失敗を受けて対策をH-IIA47号機の2段エンジンに反映したとのことだが、本日の2段エンジンの作動状況を教えて下さい。飛行中のデータに従来と異なる傾向があれば教えて下さい。
徳永・私はまだ細かいデータが見られていないので、細かいところはまだ判っていません。着火の状況、燃焼している圧力・推力になると思うが、そこに対して異常は一切認められていないというのが私の見たところでございます。これで対策を打ったものによる影響は無かったものと私は考えています。

フリーランス大塚・所定の軌道に投入という話はあったが、投入誤差が今回どれくらいだったか。
徳永・細かい数字は今ここでは申し上げられるところがございませんが、ロケット側から分離した時点での精度としては衛星様と約束しているところに十分入っている。むしろ良かったと認識しています。衛星さんが捕捉された後のデータはまた確認しておりません。

フリーランス大塚・H3の失敗を受けて対策を施した部分は、それを確認するためのテレメを追加するなどは無かったのか。
徳永・特に追加のテレメータデータはございません。既存のテレメータデータでその性能が出ているところは判っていると思います。

日本経済新聞・月面着陸は国際的に盛り上がっていて、インドが成功した一方でロシアは失敗したりと、かなり競争が激しくなっている領域だが、このインドとロシアの挑戦をどのように見られたか。それを受けて月面着陸の意義と難しさをどう感じているのか。
坂井・我々も報道されている以上の情報は特に持ち合わせていない。ロシアの方については残念ながら失敗に終わったようですので、原因等を承知している訳ではないが、月に向かってきちんと着陸していく事の難しさはあらためて感じたところでございます。一方でチャンドラヤーン3につきましては、チャンドラヤーン2の経験も踏まえたところもあったと思いますけども見事に着陸を成功させたという事で、素直にその努力については敬意を表したいと思いますし、我々もそれに続く形で着陸を成功させる、しかもピンポイント着陸を成功させるという思いを新たに強くしたというところでございます。

南日本新聞・47号機は対策を施した第2エンジン以外に46号機と何か変わったところはあるか。
徳永・46号機との違いはいくつかございまして、2つ衛星を載せるためのフェアリングで、46号機はシングルでした。それから衛星を分離するための装置、ここも今回は2回目のもの、1回目は実験的に使ったものを今回新たに使ったものを搭載しているところです。そういったところが46号機との違いでございました。

以上です。

打上げ直後のH-IIAロケット47号機。

SLIM分離時の様子(竹崎展望台プレスルームにて)