観測ロケットS-520-33号機実験の結果報告記者会見
観測ロケットS-520-33号機は2023年12月2日16時に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。この後の18時過ぎに結果報告記者会見が行われています。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 准教授 三田 信
JAXA宇宙科学研究所 学際科学研究系 教授 観測ロケット実験グループ グループ長 羽生 宏人
・打ち上げ結果について(三田)
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2023年12月2日土曜に、「先進的宇宙工学技術の実証実験」を目的とした観測ロケットS-520-33号機を内之浦宇宙空間観測所から打ち上げました。ロケットは正常に飛翔し、内之浦南東海上に落下致しました。
今後、搭載した実験装置が取得したデータについて確認し、評価を行って参ります。
飛翔結果に関しまして、機種はS-520-33号機、打上げ時刻は16時ちょうど(日本時間)、発射上下角79.0度、最高到達高度304km(打上げ279秒後)、着水時刻が打上げ543秒後となっています。
なお、打上げ時の天候は晴れ、南南西の風1.5m/秒、気温12.5度Cでした。
これをもちまして、観測ロケットS-520-33号機実験は終了となります。今回の観測ロケットS-520-33号機打上げ実施にご協力頂きました関係各方面に、深甚の謝意を表します。
・インフレータブル型データ回収システム・RATS-L
大型のインフレータブル展開型エアロシェルの飛行中の展開に成功し、ロケットから正常に分離したことを確認した。降下軌道が予測通りであることを確認した。海上に着水後も機器は正常に動作しており、現在回収に向けての作業を進めている。
写真提供:JAXA 全方位カメラで撮影した分離直後のインフレータブル型データ回収システム・RATS-L
・インフレータブル伸展プラットフォーム・IEPフライト伸展結果
宇宙空間でもまっすぐ伸びて、取り付けたカメラからその様子が撮影できた。
写真提供:JAXA 飛翔中に伸展したインフレータブル伸展プラットフォーム・IEPの先端から撮影。背景は観測ロケットと地球。
・PIデータ収集装置(PDC)
・Ethernet(有線)によるセンサーデータ等の取得および地上での再生:OK
・Ethernet(有線)による画像の取得および地上での再生:OK
・Wi-Fi(無線)によるセンサーデータ等の取得および地上での再生:OK
・Wi-Fi(無線)による画像の取得および地上での再生:OK
予定していた実験の全てで成功し、目標の機能を全て実証できた。
・観測ロケット用航法センサNANA-ka実験結果(速報)
航法センサNANA-kaによるロケットの位置速度の計測結果を取得できた。
自律飛行安全管制の計算ソフトウエアがほぼ計画通り動作したことを確認した。
・質疑応答
南日本新聞・南東の海に落ちたとのことだが、観測所から何キロのところか。またエアロシェル回収の具体的なスケジュールを教えて欲しい。
羽生・落下点は内之浦から350kmくらいの沖合に着水したと確認しました。その付近は今回設定した安全区域の中にRATS-Lが着水していて、GPSデータを補足して位置が特定できています。RATS-Lが洋上にいる位置から北の方に待機していた回収船が移動を始めていて、明日の朝、夜が明けてから回収を始める。明日回収できれば良いなと思っています。
MBC・資料によるとデータがとれたということで、打上げは成功したという事で良いか。
三田・はい、成功しました。
NVS・回収があるなら早い時間帯の打上げの方が楽だと思うが、夕方になった理由は何か。
羽生・航空路との調整がロケット打上げの場合はありまして、日中の時間帯だと混み合う。その影響をできるだけ小さくするということで、航空方面の皆様と調整させていただいた結果としての時間帯です。通常のロケットは10分程度で着水して終了となるが、今回のRATS-Lの落下時間が40~50分と予測していたので、その間は空路を空けてもらわないといけないという事情がありまして、その結果としてこの夕方の時間帯ということで決着したという事でございました。
NHK・打上げ成功ということで、受け止めを一言お願いします。
三田・自分の開発した装置があったこともあり、打ち上げ期間中は心が安まらないような状況で、データの写真とかが来た瞬間は凄い感動しました。全体としては特に事故も怪我も無く終わってほっとしているところです。
羽生・今回の実験は海の状況を考慮した上で打ち上げ日をセットしなければいけないということで、気象条件もいろいろ変わる難しいコンディションであったが、計画通り今日実施できて良かったと思っています。こちらに来る途中に地元の方とお話をさせていただいて、大変楽しみにしているとお言葉をいただいていたので、なんとかうまく飛ばせる状況になったので良かった。結果も、今回4つの装置がそれぞれ必要なデータがとれたという事で、大変ほっとしているということろです。
フリーランス鳥嶋・観測ロケットの今後について、JAXAは再使用型の観測ロケットを開発しているが、今回のような固体推進薬の観測ロケットとの兼ね合いというか、今後どうなっていくか。またS-520は初打ち上げから40年以上も経っているが、今後より良い観測ロケットを開発する構想はあるか。
羽生・確かに設計はだいぶ昔のものではあるが、適用している材料とか部品など見えないところがアップデートしている事もあり、決して古くはないロケットです。しかもこれまで実績があることも我々の支えになっているので、引き続きこのロケットを使っていくという意思です。一方で今後登場してくるであろうロケットに対しては、我々は運用しているという一側面もあり、運用する技術というのは大変大事である。16時ちょうどに打ち上げるという事に対して必要な行動を我々は時間を計ってリハーサルをしているが、そういうノウハウは新しいロケットに対しても重要な知見になるので、こういうのは絶やしてはいけないという認識もあります。将来に向けての基礎を保持し続けるという事に加えて、今あるロケットは確かに長く運用しているが、それはそれとしても部分部分でアップデートされて進化を続けているという事でありますので、将来に向けて固体燃料ロケットとしてはこのスタイルは使っていく、新しいロケットが登場した時には、我々の使っている運用技術もうまく活用して発展的に使って行ければいいかなと考えています。
東京とびもの学会・RATS-Lは以前に小型のもので実験をしているが、大型化した以外の違いやポイントと、それから今回成功したことを受けての将来への展望をお聞きしたい。
羽生・担当ではないので的確な答えになるか判らないが、まずは回収するところ。前回はヘリコプターを使って回収するということで、比較的近海に着水して取りに行った。今回は船を使ってより遠洋のところできちんと回収をやってみるところも、これも知見として蓄えられるかなと思っています。一方で大型化することによって、装置に対して中身を大きくすることができる。収容能力も上がるでしょうし、技術としては発展型になっている。今後惑星探査にも使っていく技術という意識を持ちつつ、これの開発を進めてきているので、大型化の部分でのノウハウ、回収のノウハウ、そういったところを高めていく。更にはこの先があると思うが、今回そういったところまで一歩進めていると理解しているところです。
東京とびもの学会・今回は位置測定にGPSを使っているが、観測ロケットで物を回収する際にこれまでGPSで位置を特定して船や航空機で回収というのは直近であったか。
羽生・GPSを使うという事については過去いくつかチャレンジしているところがあって、その要素技術を組み合わせて、今回のRATS、RATS-Lとステップアップしてきています。やはり位置特定をするということは、回収にとってとても大事であることと、そのデータを使って位置を特定して更に捕まえるというところまでやるのはなかなか難しいところですので、今後もこういった技術をより発展的に使って行けたらいいなと思っています。
NVS・全天球の写真をどこかで見られるように公開する予定はあるか。
三田・まずJAXAライブラリに載せる予定なのと、今回動画も撮影しているので、うまくいっていればYouTubeなどで出せればいいなと思っています。
・ぶらさがりにて
Q.インフレータブル伸展プラットフォームは展開した形状をどれくらい維持できたか。
A.時間はまだ出ていない。また、もともと大気圏の再突入には耐えられない。
Q.今回の模型は3Dプリンタを使ったのか。
A.ケースやタンクなどはそうである。外側のアクリルは特注で3Dプリンタではない。コネクタやパイプ類は市販のもの。ネジは同等品(検査していない等の差)。
実験機器などが入った頭胴部の模型。内部の機器やフレームは3Dプリンタ製。
下部の機器やタンクも3Dプリンタ製、配管などはそれらしいものを流用したそうです。
写真提供:JAXA 射点近傍から撮影した観測ロケットS-520-33号機打上げの様子
報道席及び一般見学場からはランチャとロケットは見えず、以前の射点であるKSドームの背後からいきなり飛び出してきます。撮影:柴田
飛翔中の観測ロケットS-520-33号機。報道席より。撮影:柴田
以上です。