H3ロケット試験機3号機の打上げについて【追記あり】

 2024年6月28日午後に種子島宇宙センター竹崎展望台の記者会見室でH3ロケット3号機の打上げ前プレスブリーフィングが開催されました。当初予定では2024年6月30日に打ち上げ予定でしたが、機体移動が行われる前日の段階から天候悪化が予想されるため、2024年7月1日に変更された事が発表されました。また打上げ時刻については12時6分42秒(JST)と決定され、このプレスブリーフィングの翌日に発表されています。

 

 追記・打上げ前プレスブリーフィングの詳細です。
(※一部敬称を省略させていただきます。また聞き取れなかったところなどを省略しています。事情により掲載が遅れました)

・登壇者
 JAXA 第一宇宙技術部門 先進レーダ衛星プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 有川 善久
 三菱電機株式会社 鎌倉製作所 衛星情報システム部 プロジェクト部長 白坂 道明
 JAXA 宇宙輸送技術部門 H3 プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 有田 誠
 三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 H3 プロジェクトマネージャー 志村 康治

・登壇者挨拶・有田
 皆さんこんにちは。今日は初めての方もいらっしゃるのではないかと思いますので、最初に私の方から少しだけお話をさせていただいてから資料の説明に入りたいと思います。
 H3ロケットは皆様のおかげをもちまして2月17日、試験機2号機の打上げに成功したことで、ようやくスタートダッシュを切ることができました。しかしながら最終的にH3ロケットが目指す姿ですとか、ゴールに辿り着くためにはまだまだやらなければならない事が沢山あり、このロケットに磨きをこれからかけていかなければならないという状況でございます。これらの作業はとても地道な作業ですのでおごらず真摯に、一方で子供の頃から大好きでしたロケットに向き合う仕事という事で、これを楽しみながらH3ロケットを皆様に愛され使っていただけるロケットに育ててまいりたいと思っております。この4月からプロジェクトマネージャという形で勤めさせていただいておりますけども、同じようにH3ロケットの開発を一緒にやっていただいているMHIさんの志村プロジェクトマネージャも似たような状況にあるかなと思いますので、志村さんからも一言いただければと思います。

・登壇者挨拶・志村
 始めまして、三菱重工の志村と申します。この4月からH3ロケットのプロジェクトマネージャを勤めております。これから有田さんをはじめJAXAさんの皆さん、してパートナーの皆さんと一緒にH3ロケット1本1本成功を積み重ねまして、有田さんがおっしゃられるように皆様に愛されるロケットにH3を育てていきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。

・打上げ日の再設定について(有田)
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、種子島宇宙センターから先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)を搭載したH3ロケット3号機の打上げを2024年6月30日に予定しておりましたが、打上げ前日及び当日の天候悪化が予想されるため、下記のとおり変更いたします。
  打上げ日 : 2024年7月1日(月)
  打上げ時間帯 : 12時6分42秒~12時19分34秒(日本標準時)
  打上げ予備期間 : 2024年7月2日(火)~2024年7月31日(水)
  なお、7月1日の打上げの可否については、明日以降の天候状況を踏まえ、再度判断いたします。
  (※当初打上げ予定日の6月30日は、強風の他に高層での氷結層の発生が予想され、機体移動を予定していた6月29日は雨と雷が予想されていた)

・H3ロケット3号機の準備状況(有田) (※資料より抜粋)

 ・H3ロケット3号機
  ・試験機2号機で飛行実証を行ったH3-22S形態により、先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)の打上げを行う。
  ・衛星分離後に、コーストフェーズを経て第2段機体の制御再突入を行う。
  ※H3-22S:LE-9エンジン2基、固体ロケットブースタ(SRB-3)2本、ショートフェアリングの機体形態。
  ・LE-9はType1Aを2基使用。
  (※これまでのH3ロケット試験機1号機ではType1を2基、試験機2号機ではType1とType1Aを1基ずつ使用した)

 ・極低温点検を2024年5月29~30日に実施。
  打上げ当日と同じ手順でロケットを射点に移動して推進薬を充填し、ロケットおよび地上設備の機能等を確認する試験。
  機体移動及び2回のカウントダウン(X-0)及び特別検証を実施して、良好にデータを取得し、5月30日(木)午後3時頃に予定通り機体を大型ロケット組立棟(VAB)に返送した。
   ・1回目:試験機からの改善点等に関するデータを良好に取得。
   ・2回目:将来のミッションを想定し、2段の推進薬を減らした条件下で実施。
   ・特別検証:2段の推進薬を減らした条件でのデータ取得等を実施。

 ・2024年6月23日:衛星+フェアリングをロケットに搭載。
 ・2024年6月24日:最終機能点検
 ・2024年6月26日~27日:リハーサル
 ・2024年6月27日:RFシステム点検

 ・今後のスケジュール
  ・2024年6月30日20時30分頃:機体移動。VABから第2射点へ。
  ・2024年7月1日2時30分~:3km総員退避。
  ・2024年7月1日12時06分42秒:打上げ。

 ・スロットリングについて
  ・第1段エンジン燃焼フェーズにおいて、エンジン推力が一定の場合、燃料を消費し機体が軽くなるにしたがって機体の加速度が大きくなり、搭載している人工衛星への負荷が厳しくなる。この加速度増加を抑え、衛星搭載環境を向上させるため、通常よりもエンジン推力を絞るスロットリングを行う。
  ・H3ロケットにおいては、第1段エンジン燃焼フェーズの最後の約20秒間推力を約66%に絞る。
  ・第1段エンジンのスロットリングは、3号機で初めて飛行実証する。

・登壇者挨拶・白坂
三菱電機鎌倉製作所の白坂と申します。衛星のプロジェクト発足当時から先進レーダをまとめさせていただいております。いろいろありましたが、本当にあっという間の7年間だったなと思っております。だいち4号の方は3月19日に弊社の鎌倉の工場を出まして、その後種子島に搬入しまして、所定の作業をつつがなく終了しております。特に問題は発生しておりませんでしたので、打上げまで気を抜かないように頑張りたいと思います。

・先進レーダ衛星「だいち4号」について(有川)  (※配付資料より抜粋)

 ・「だいち」シリーズ衛星は、地震、豪雨による水害・土砂災害、森林火災、火山噴火などの様々な災害の監視や状況把握、地理空間情報の整備・更新などへの貢献を目的とした地球観測衛星。
 ・2006年打上げの初代「だいち」では、光学・合成開口レーダ(SAR)センサをそれぞれ搭載し、2011年の運用終了まで地図作成、災害監視等の分野に広く活用された。
 ・2014年打上げの「だいち2号」は、「だいち」のSARミッションを引き継ぐ衛星。SARセンサは昼夜・天候の影響を受けずに観測できる。
 ・「だいち4号」は、「だいち」「だいち2号」のLバンド(1GHz帯)SARミッションを引き継ぐ衛星。高分解能(3m)を維持しつつ、だいち2号から観測幅及び観測頻度を大きく向上させた。だいち2号との継続性・連続性を確保し、成果の早期創出や新たな利用開拓を目指す。
 →日本全域について、3m分解能で幅200kmの観測を実施。「だいち4号」であれば、14日間(1回帰)で日本全域をカバーできる。(※「だいち2号」だと4倍かかる)
 →日本域を最大年20回程度観測可能。
 →前後比較による変化検出や時系列解析において、より直近(最短で2週間程度)かつより精度の高い情報を得ることが可能。
 これまでの地殻変動の監視は年間数センチメートルオーダーの観測だったものが、ミリメートルのオーダーで把握することが出来る。

 ・「だいち4号」について
  ・設計寿命:7年
  ・ミッション機器:PALSAR-3(フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ)、SPAISE3(衛星搭載船舶自動識別システム実験3)
  ・サイズ:10.0m×20.0m×6.4m
  ・質量:約3,000kg
  ・太陽電池:約7,000W
  ・バッテリ:380Ah
  ・データレコーダ:約1Tbyte
  ・軌道種別:太陽同期準回帰軌道
  ・高度:628km
  ・降交点通過地方太陽時:12時00分
  ・回帰日数:14日
  ・軌道傾斜角:97.9 deg.
  (※軌道は「だいち2号」と同じ)

 ・打上げ後のスケジュールについて
  ・クリティカル運用:衛星分離後、姿勢の確立、太陽電池パドルの展開に引き続き、PALSAR-3及びSPAISE3のアンテナを展開。打上げ後最大3日間を予定。
  ・初期機能確認運用:衛星システム及びミッション機器が所定の機能・性能を有していることの確認。打上げ後3ヶ月まで。
  ・初期校正検証運用:PALSAR-3標準プロダクトの校正検証。打上げ後6ヶ月まで。
  ・定常観測運用:PALSAR-3標準プロダクトの提供開始。打上げ後6ヶ月以降。
   (※一般ユーザ(JAXAとの協定/取り決め等があるユーザ以外の全ユーザ)に対しては、JAXAが選定する複数民間事業者から提供を行う予定。この事業者公募に関する提案要請書は、打上げ1ヶ月後程度を目途に「サテライトナビゲータ」に掲載予定)

・質疑応答
産経新聞・1日延期となったが打上げ目前です。プロマネになって初めての打上げだが、率直な心境と成功に向けての意気込みを聞かせて下さい。
有田・プロマネとして初めての打上げという事になりますので、正直緊張して眠りが浅い日が続いているというのが正直なところではあります。ただ打上げの準備作業は非常に順調で、F0の結果も踏まえて準備は着々と進んでいるというところで、そこのところは非常に心強く感じているところです。試験機1号機で同じ名前のついている大事なだいち3号を落としてしまったというところの責任を感じているというところもありますので、今回のだいち4号については、なんとしても軌道に届けたいという思いでおります。些細なことも見逃さずに着実に打上げを成功に導いてまいりたいと思います。
志村・私もプロジェクトマネージャになって最初の号機ということで緊張感があるのですけども、それよりなによりやはりだいち4号という重要な衛星を打ち上げるミッションということで、私を含めてロケット関係者一同非常に緊張感を持って取り組んでおります。残り僅かですけども、一つ一つの作業を最後まで確実丁寧に仕上げて、だいち4号を宇宙に送り届けたいと考えています。

産経新聞・H3の3号機ですが、今回「試験」がとれた。H3の開発計画の中で3号機はどういう位置付けで意味を持つのか。
有田・1号機が失敗して、2号機は成功して、このロケットがシステムとして宇宙に飛んでいけるロケットであるということは一旦は証明したものの、これがまぐれではないことをきちんと証明しないといけないという意味で、この3号機の打上げが正にその場になると考えています。本格的な実用という事に向けて大事なステップになると考えています。
志村・私共もほぼ同じ認識ではあるのですが、ロケットの打上げはどれも1つずつ大事な打上げですので、今回は特別という思いを必要以上に感じる事なく、一つ一つ平常心で臨んでいくという事がロケットの成功に繋がる基本かなと考えておりますので、落ち着いた気持ちで作業を仕上げて平常心で打ち上げの日に臨みたいなと感じています。

フリーランス・1号機喪失からの2号機の成功、そして3号機ですが2号機から更に進化している。だいち4号を搭載しているので2号機を踏襲すると思ったが1段のエンジンがタイプ1Aが2基に、更にスロットリングも試みるという事で、その攻めの姿勢が素晴らしいが、更に進化した機体を用意した意気込みの自信と期待という事と、スロットリングというのはエンジン推力を絞るということで気を遣うところもあると思うが、その辺りを率直なところを聞かせて欲しい。
有田・最初に申し上げた通り、このH3ロケットを磨いていかなければならない。これは私達がずっと思っていることで、その一環として1段エンジンの部分に磨く要素を持って打ち上げるという事です。スロットリングという機能はLE-9エンジンに元々開発時から織り込んでいた機能です。ただし2段階の推力を検証するという事は、ある意味2倍の労力がかかる部分もありますので、エンジン試験の中でこれをしっかり検証していくという事が大事でした。タイプ1Aエンジンにつきましてはスロットリングの機能についてもしっかり地上燃焼試験で十分な検証を経て、私達としては100%燃焼と同じだけの自信をもってフライトに供せると判断して、今回大事な衛星を載せますけども、正に衛星に優しいロケットにするためという事で有川さん達にもご理解をいただいて、今回こういう飛ばし方をする事に致しました。
志村・殆どその通りだが、我々としてもエンジンの燃焼試験を含めてスロットリングを確認しておりますし、機体とのインターフェースも最後まで見落としが無いかという所を確認して、自信を持って打上げたいと考えています。

朝日新聞・タイプ1Aのエンジンはタイプ1の改良版という事だと思うが、どういった違いがあるのか。あと今回も固体ロケットブースターを2本搭載していて、当初2号機はブースター無しの計画だったが1号機の失敗で3号機もブースターを使用する事になったと思うが、ブースター無しの計画というのは今も目指しているという事で変わってないのか。H3はH-IIAの半分の費用での打上げを目指していると思うが、そこを目指す上でブースタ無しの打上げが必須になるのか。
有田・まずタイプ1Aはどういった物かというのは資料16頁に載せております。ここにタイプ1とタイプ1A、そして恒久対策仕様のタイプ2という3つのタイプについて説明しております。タイプ1Aは心臓部であるターボポンプ、燃料側のFTPと酸素側のOTPがありますけども、このFTPとOTPについてはタイプ1と同じ物を使っております。心臓部はタイプ1と同じとご理解いただきたい。ただしタービンに入るガスの温度を上げることによって性能を上げるという事が出来ているというのがタイプ1Aの特徴です。またその他のコンポーネントに書いてありますけども、これについては恒久対策仕様のもの、つまりタイプ2の部品をいくつか先行して適用して、例えば低コスト型とかそういったものに資するものについてはタイプ2のものを先取りして使っているのがタイプ1Aエンジンになります。固体ロケットブースタ無しの形態ですが、まず計画自体は生きていますというのが答えです。最初の挨拶の中でまだまだやらなければならない事が沢山残っていると申し上げたもののひとつがこちらです。30形態というメインエンジンが3台ついていて固体ロケットブースターが無いために30形態と呼んでおりますけども、こちらの方を準備を進めているところで計画としては進めてまいりたいと思っております。こちらの形態につきましての売りは、おっしゃっていただいた通りH-IIAロケットの半額の費用にするというところを実現するのがこちらの形態ですので、そういった意味でもH3の旗頭みたいなところがありますので、ぜひこちらの方も実現してまいりたいと考えているところです。

朝日新聞・H3の打ち上げ費用がいくらかというのを出すのは難しいと思うが、H-IIA費用から半減という目標にはどれくらいまで来ているのか。
有田・低コスト化については三菱重工さんと二人三脚で日々努力しているという状況で、なかなかどこまでという所は申し上げにくいところですが、私共としては当初掲げた目標を諦めることなくこの努力を続けてまいりたいと思っているところです。

KTS・有川さんは鹿児島市の出身ということで、今回プロジェクトマネージャとしてだいち4号の開発に携わってきて、あらためてだいち4号を打ち上げる今の気持ちについて聞かせて下さい。
有川・今おっしゃっていただいた通り私は鹿児島県鹿児島市の生まれで、高校まで鹿児島で育ちました。小さい頃から打上げの様子を見ていましたが、やはり宇宙にいちばん近い県ということで、小さい頃から身近に感じていたというのは事実です。今回、私は人工衛星の立場ですけども、先ほどから有田プロマネと志村プロマネからあった通り、やはり日本のフラッグシップというか重要なロケットH3がこの鹿児島から、種子島から打ち上げられ、これが軌道に乗って何本も打ち上がっていくという姿は、一国民として大変期待したいと思っています。自分が担当しておりますだいち4号、この衛星が故郷鹿児島から打ち上げられるということは、やはり感慨深いものがあります。地元の人達と、親族とよく話を最近しますので、打上げ成功を祈っていると、昔の友人からも声をかけてもらっています。そういった地元の声援、後押しを得ながらH3の成功、更にはだいち4号が軌道上でしっかりと打ち上がった後に機能を果たして、そして日本国内の皆様、世界の方々に一日でも早く貢献出来る日を私も心待ちにしていると考えています。

JSTサイエンスポータル・ALOS-4について国際的な観点で解説願えればと思います。世界の同じような種類の地球観測レーダ衛星と比べた性能の水準について、例えば分解能3mとか観測幅200kmの両立というのは世界のトップになるとか、自慢できるところは何か。それから観測による国際貢献、能登半島地震とか日本の観測についてはコメントをいただいたが、国際貢献や国際的な観測の連携体制についてコメントをお願いしたい。また、ALOS-4の質量3トンというのはドライかウェットかを教えて欲しい。
有川・技術的な優位性について、海外の衛星に比べましてご指摘いただいた通り、高い分解能と広い観測幅の両立を目指すところが大変難しい、世界最先端の技術と考えています。少し技術的な話をさせていただくと、デジタルビームフォーミングという複数のデジタルの信号を、複数の場所から跳ね返ってきた信号を同時に処理する、こういった技術を世界で初めて搭載するものになります。こちらの詳細についてはプレスキットに解説が載っておりますけども、このデジタルビームフォーミングを搭載した人工衛星、宇宙のSARの衛星としては世界初になります。例えばベンチマークで申し上げますと、アメリカとインドが協力をしながら開発していて、アメリカのNASAが開発しているLバンドのSAR衛星のNISARというものがありますが、11mの分解能で幅が240Kmという事になっています。幅はあまり変わらないのですが、観測幅3km(?)というのはやはり世界でもトップクラスという事になります。その他ヨーロッパではROSE-Lという衛星が2028年以降に同じ技術を用いて達成出来る見込みである。このLバンドSARという合成開口レーダの技術、それからデジタルビームフォーミングという事で世界のトップを走っていると自負しております。
白坂・有川さんが殆ど説明していただいたのですが、LバンドのSARは三菱電機が世界をリードする技術を持っていると自負しております。今DBF技術について説明いただいたが、他にも帯域分割方式とか新しい技術をいろいろ詰め込んだものとなっております。あとSARの受信した電波を増幅するTRMという機器があるのですが、そこに搭載しているデバイスを自社開発したりとか、いろいろな開発を行っており、高分解能広帯域というのを実現しております。
有川・今DBFというキーワードが出ましたが、これがデジタルビームフォーミングの略になります。それからTRMというのはアンテナの部分に約230個載っている増幅器、高出力のアンプと受信のアンプの部分、これが一体となっているものをTRMと呼んでおります。これが三菱電機さんの先端的な技術になります。海外の観測について質問をいただきましたが、だいち2号からずっと続けておりますが、国際災害チャーターということで、世界で災害が起こった時に各国が持っている人工衛星を協力して観測し合うといったもの、またセンチネルアジアという取り組みも進めておりまして、これはJAXAがリードしているものですけども、そういった各国の災害にも迅速に緊急観測を行うというものです。記憶に新しいトルコの地震の時にも、だいち2号の観測結果が使われたという事になっております。最後に質量について、正確に申し上げると2800kg程度ですが、これは推進薬込みのウェットの質量になります。

時事通信・スロットリングは衛星の乗り心地、振動とか音響に効果があると思うが、ペイロードとか飛行計画によっても違うと思うが、競合するロケットとの比較で、乗り心地の面での目標はあるか。乗り心地を良くする事で海外から受注をとっていく時の売り込みのアドバンテージになる点はあるか。
有田・おっしゃる通りこのスロットリングについては、振動ではなく静的な加速度を抑える効果があります。世界標準ですと5.5Gくらいまでかかるロケットが多いが、このスロットル機能によって今回の場合ですと4Gちょっとというところに加速度を抑えております。という事で世界標準よりも静加速度の観点では優しいロケットにするということで、このような取り組みを行っているとお考えいただければと思います。
志村・顧客の皆様に対しても、やはり衛星の乗り心地というのは重要なファクターでございます。衛星は非常に高価な物ですし、少しでも加速度が小さい、振動が小さいというのは衛星の設計をする上でも非常に効果が大きいものですので、こういった機能がついているという事はお客様にとっても非常に喜んでいただける面でございます。

時事通信・今回は4Gちょっとという事ですが、これは世界的に見てどれくらいのレベルか。
有田・世界の多くのロケットが5Gを越えるような加速度が普通かと思います。それを4Gクラスというは、実はH-IIAもそれくらいだったが、似たようなところで優しい条件を満たそうとという風にしております。

ニッポン放送・2号機で施された電気系統の対策、エキサイタや半導体、絶縁強化といった対策については変わりがないのか。前プロマネの岡田さんからは今回の打上げにアドバイス等はあったか。もし沢山あれば、その中で印象的なことは何か。
有田・対策については(配付資料の)2頁目の表に示しておりましたが、2号機で施した対策を基本的にそのまま3号機にも適用しており、万全を期しております。それから岡田前プロマネからのアドバイスというと、実は今日とても良いアドバイスをもらいました。打上げが残念ながら延期になってしまったということで、打上げを楽しみに種子島に来ると既に予定されていた方々がいるのではないかということで、そういう方々の中には打上げを見ることができずに帰られる方もいるのではないか、そういう方々がこの竹崎にある科学館に寄られる方もいるのではないか、そういった所に有田さんがぜひ行って話をする機会があったらいいのではないか、是非科学館に足を運んでくれといったアドバイスを貰いました。本当に目から鱗というか、今まで正直あまり考えていなかったのですけども、なるほど岡田はそういう事も考えていたのかという事にちょっと感動しました。私も是非実践してまいりたいと思います。

日刊自動車新聞・H3に限らないが、宇宙開発に関して民間企業への期待や参画を得る意義を教えて欲しい。また車載等で養った要素技術を活かし今後の参画や関心を持つ企業も多数いると思う。それらの企業への期待をあらためて伺いたい。
有川・民間企業という事で、今回登壇されている三菱重工さんと三菱電機さん以外を含めてと解釈してお答えします。JAXAがLバンドの合成開口レーダーというものを開発しておりますが、昨今民間企業さん、いわゆるベンチャー企業さんが、小型のSAR衛星というものを飛ばしています。コンステレーションを構築して事業を自ら実施していこうというものになっています。この活動はJAXA側としても大変期待しているところでございます。と申しますのも、役割分担があると思っておりますので、例えばだいち4号が広域に観測する、高頻度で観測し、国土の異変を早期に発見するという事が判った後に、そういった民間のXバンドSAR衛星のコンステレーションに観測をお願いしていくとか、異変があるところを細かく見ていくといった役割分担が我が国としては求められるのではないかと、大変期待しているところでございます。また車載の要素技術の活用については、多分ロケットの方が答えがあるかと思いますけども、勿論JAXAの人工衛星でも車載の小さい部品を使っていますし、昨今ではLiDARとか衝突回避のいろんな最先端の技術が車載用で使われていると承知していますので、こういったものが将来的にJAXAが開発する人工衛星にも応用されていくのではないかと期待しているところです。
有田・ロケットの分野でも、当然ながらH3ロケットでも多くの民間企業さんの参画で成り立っているというのが厳然たる事実であります。本当に多くの企業の皆さんに支えられているというところです。もっといろいろな会社さんに今後も参画いただくという事で、宇宙産業がこれから伸びていくという事が期待されていますので、それを担っていただくという意味でも民間企業の皆さんに是非参画いただきたいと思っています。またH3ロケットにはアビオニクスに車載部品を多数搭載しています。これがH3ロケットを低コスト化する大きなキーになっているというところで、車載部品は低コストな割に性能が非常に良いという物ですので、これを三菱重工さんを始め各メーカーさんがいかに使いこなすかという事で大変苦心されて、その結果がこの打上げに繋がっているとご理解いただければと思います。
志村・その通りの面が多数あります。今おっしゃっていただいた車載用の部品を使っていますが、非常に性能が良いですし信頼性も高いです。これまでロケットや衛星は宇宙の中で部品から全てやらないとというのがだいぶ前の開発の時代にはあったが、今の民間の技術がかなり上がっていますので、今例を挙げた自動車部品などをはじめ民間の技術がそのまま一緒にいろいろ考えると宇宙に使えるというものが増えてきていますので、いろんな会社の方々とお互い敷居を下げてお話をしたりして広がっていけばいいなと考えています。

フリーランス鳥嶋・機体移動の時間について、今月の24日になって当初の17時30分の予定から3時間ほど後ろ倒しになって20時30分と連絡をいただいたが、この3時間後ろにずれた理由は何か。
有田・連絡について存じ上げないので正確ではないかもしれないが、考えられるのが、試験機1号機ではトラブルもあり打上げを延期したこともあったが、2号機は非常に順調にいった、それから先日のF0も非常に順調にいった、ということで従来とっていた余裕時間を短くする決心を今回しました。という事で機体移動を含めた全体の作業の開始を遅らせて作業者の負担を減らすという事も含めて今回トライしたいと考えています。

フリーランス鳥嶋・短くすることで一番大きいのはコストが安くなるのか。代表的なメリットは何か。
有田・かなり多くの作業者の方々が打上げに関わっておりますので、その時間を1時間でも短くするということは低コスト化にも繋がると思いますし、やはりこれから出来るだけ頻度高く打っていくということを考えますと、地元の皆さんへの負担を軽くする必要があると思います。規制の時間を短くする事で、地元の方にいろいろご協力をいただいていますので、その部分の負担も軽くすることができると考えています。

宇宙作家クラブ渡部・スロットリングは、イメージとして最後の20秒間にいきなり66%まで絞るのか、それとも20秒間かけて66%に絞られていくのか。
有田・正確に何秒だったかは忘れましたが、短い時間ですっと下げます。いきなり下げると、変な振動を起こしたりする副作用もありますので、あまり急激ではなくて、1秒とかそれくらいの時間をかけて推力を落として、そして20秒間は66%で維持すると考えていただければと思います。

NHK・TF2はVEP4を搭載して打上げて、今回は実衛星という形ですが、実衛星を載せるハードルで考えられる要素はどういうものがあるのか。F3の打上げ費用は具体的な数字でどれくらいになるのか。
有田・実衛星を載せるハードルについて、やはり1号機にだいち3号という大切な衛星を載せて失敗したということで、これについてはJAXA全体として反省点は無かったかという議論を致しました。最終的にはその結果を宇宙開発利用部会にも文科省の方にも報告をさせていただきましたが、やはり基本的に新しいロケット、システムを刷新するような新しいロケットの時にはVEPのようなペイロードにすべきではないかという形で報告がまとめられています。一方でいつでもそうしなければならないかということについては、その時々の技術水準の評価、こういったもの考えて、また衛星側の状況も踏まえて都度判断をしていくべきという事も併せて述べられているという内容になっています。実衛星の載せるハードルについてですが、このH3ロケットにつきましては、試験機1号機は2段目の着火には失敗したものの、大きな開発要素であった1段目あるいはSRB-3、こういった物は問題無く機能したことが証明されている事、そして2号機でVEPを搭載してほぼ完璧と言って良い成功を収めることが出来たという事で、大事なだいち4号を載せることが出来るという事を私共の社内で、独立的な組織も含めて評価を行いまして、その結果を文科省の宇宙開発利用部会の方にも報告させていただいて、それが妥当であるというご判断をいただいて、このような形に至っているという事で、このハードルを2号機の打上げまででクリア出来たものと考えております。

NHK・質問の仕方が悪かったかもしれないが、VEP4はだいち3号と重さと重心が同じだったと思うが、それ以外の実衛星を載せた時の振動の伝わり方の違いとか実衛星を載せたことで生まれるファクターにはどういうものがあるか。
有田・VEP4はだいち3号と質量をほぼ揃える形で同じ軌道に打ち上げるという事を行いました。だいち4号につきましては質量が若干違い、軌道も若干は違いますが、非常に似通ったところではあります。しかも当初だいち4号は固体ロケットブースターの無い30形態で打つ予定でした。逆に言うと22形態では十分な打上げ能力を持って、十分な余裕を持って打上げに臨めるという事でもあります。2号機まででVEP4を搭載した状態での、衛星を搭載した状態が実証されておりますので、この3号機について、だいち4号を載せる振動環境なども含めての問題も全てクリアできていると考えております。

NHK・打上げ費用について。
有田・打上げ費用について具体的な数字は三菱重工さんが顧客獲得のために日々奔走されている活動の邪魔になる可能性があるという面がございますので控えさせていただきたいと思います。

NHK・今までの開発費用がTF2の時は2千億を超える形だったが、今回の時期までの総額は判るか。
有田・H3ロケットそのものの開発費ですが、今年度までで2393億円ということは変わっていません。

東京新聞・だいち4号と小型SAR衛星コンステレーションの棲み分けと協力について伺いたい。
有川・ベンチャー企業さんがやられているXバンドSARというのは波長帯が違うこともありまして小型で作れるというメリットがあります。非常に高い分解能で、1mを切るような分解能で地表の様子を観測出来る。ただ観測幅が10km程度という事で、小さい所を細かく見るという特徴があると考えています。これをコンステレーションという形で多数機を打ち上げる事で、例えば将来的には災害が発生した後、3時間以内に被災地を観測することができるようになるのではないかという事で、今構築が政府の側でも検討が進められているという所と承知しております。だいち4号と小型コンステレーションの連携につきましては、大きく2つあると思います。だいち4号で広域を観測し異変を早期に発見した後、そういった小型コンステレーションで詳細に観測していく、しかも連続的に観測していくといったものであったり、一度に広いエリアに災害が発生した時にもだいち4号の画像と小型コンステレーションの画像をモザイクのように繋ぎ合わせ、これによってカバーができる時間をなるべく短くしていく、こういった姿が考えられると思っています。

フリーランス林・スロットリングの飛行実証や、地元の方や作業員の方の負担を下げるために機体移動の時間を遅らせたりという方針は有田プロマネの意向が反映されているのかと思ったが、岡田さんからプロマネを引き継いで、方針で何か工夫されている点とか気をつけた点とか、チームマネージメントで心がけている点とかそういったことがあれば聞かせて欲しい。
有田・全体的な仕事の進め方そのものについては、岡田プロマネがやってきた路線を引き継いでやっている。例えばスロットリングとか、余裕時間のとり方、こういった所については私が強力に推し進めたというよりは元からこういう事でやっていこうと考えていたところではあります。岡田とも相談をして、こういった形で決めて、これをやろうと決めてきているところであります。私がプロマネを引き継いでこのプロジェクトをどういう風に運営していくかについては、基本的に私のチームにいる人達は基本的にロケットが好きな人間が多いです。こういった大きなロケットの開発に携わるという事は本当にそれを担当できるということ自体が機会としてとても少ない、貴重な機会だと思っています。ですのでそういったプレッシャーはある訳ですが、悲壮感に満ちた感じになるのではなくて、貴重な機会に巡り会えたということを幸せなことだと感じて、苦しい事も多いけども、やるなら楽しんでやろうという風に言っているところです。ただ仕事をやる上では丁寧にこれをやっていこうという話をしているところです。

NVS・打上げが1日延びたが、ウインドウはそのままで秒も変わらずスライドしたので、また延びても基本的に打上げ時間は変わらないと思って良いか。
有川・ローンチウインドウについては衛星側の要求になりますので、私の方から回答致します。毎日お昼の12時と夜の12時に巡ってくる軌道、ここに投入するという希望がございます。これは今軌道上で運用されているだいち2号と同じ軌道面に揃えて入れるという事を要望しています。ローカルの12時に打ち上がって少し時間遅れがあるということを換算した結果として12時6分という事でローンチウインドウのオープンが定められている。これは日付が変わっても日本の打上げ地点に対する関係性になりますので、ここは変わらないというのが答えになります。
有田・衛星側のインターフェイスはそういう形ですが、ロケット側も打ち上げる時の条件を定める解析がいくつかありますので、そういった条件も加味して最終的に決めることになりますが、今のところ8月1日の打上げに向けては変わらない見込みです。

NVS・強風の予報が出ているが、これは制約条件内なので、あくまで29日の発雷と、30日の氷結層が今回の延期の原因ということか。
有田・おっしゃる通りです。1日と2日の風は、正直心配が全く無いかというとゼロでは無いということで、慎重に天候判断を明日以降も続けて参りたい。

共同通信・3号機が成功したとしてその後H3への信頼を盤石にしていく上で、更に何回くらい打上げに成功すれば良いか。
有田・我々としてはもう連続成功あるのみです。この先一度も失敗することなく成功を続けていくのが私達の使命だと思っています。

以上です。