H-IIAロケット50号機/温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)の打上げ前プレスブリーフィング

 2025年6月27日14時より種子島宇宙センター竹崎展望台記者会見室で行われた、H-IIAロケット50号機/温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)の打上げ前プレスブリーフィングです。

(※一部敬称を省略させていただきます。また一部で聞き取れないところがあり省略させていただきました)

・登壇者(※向かって左側より)
 三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 MILSET長 長沼 公明
 三菱電機株式会社 鎌倉製作所 衛星情報システム部 先進衛星システム課長 井口 岳仁
 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 第一宇宙技術部門 GOSAT-GWプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 小島 寧
 環境省 地球環境局 総務課 気候変動観測研究戦略室長 岡野 祥平
 国立環境研究所 地球システム領域 領域長 谷本 浩志
 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター 研究領域主幹 可知 美佐子

・温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)の愛称について(小島)

 まずGOSAT-GWの愛称について発表したいと思います。
 愛称ですが「いぶきGW」と呼びます。
 GOSAT1号機2号機でも「いぶき」という愛称を使っていましたが、そちらは呼吸とか息づかいという意味でしたが、いぶきには新しい世界を創る、新しいエネルギーを呼び込むというような意味もありますので、GとWの2つのミッションで新しい世界を創ってゆくという事を込めまして「いぶきGW」と名付けました。どうぞ皆さんこれからは「いぶきGW」を是非とも使っていただきたいと思います。

・H-IIAロケット50号機による温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)の打上げ時刻および打上げ時間帯について。 (※配付資料より)

 三菱重工業株式会社は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)を搭載したH-IIAロケット50号機打上げについて、下記のとおり決定しましたのでお知らせいたします。

 打上げ日 :2025年06月29日
 打上げ時刻 :午前01時33分03秒(日本標準時)
 打上げ時間帯 :午前01時33分03秒~午前01時52分00秒(日本標準時)
 打上げ予備期間:2025年06月30日~2025年07月31日
 ※機体移動 :2025年06月28日午前10時30分頃(日本標準時)

・準備状況について  (※配付資料より)
 ・H-IIAロケット50号機は飛島工場を2024年9月27日に出荷後、射場にて長期保管。
 ・2025年2月24日に射場作業を開始。
 ・以下の射場整備作業を良好に実施。
  ・カウントダウン・リハーサル(6月11日)。
  ・関係要員に対し打上げ当日の対応手順を周知徹底するために、打上げ時の作業を模擬。
 ・温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)とロケット機体の結合作業(~6月14日)。
 ・機能点検(~6月16日)。
  機体の各機器が正常に作動することを確認。
 ・機能点検において、第2段機体の電気系統に電圧変動事象が確認され、対策及び原因究明に時間を要することから、発射整備作業を延期(6月19日)。
 ・同系統にある機器単体の異常が原因であることを確認し、本日までに当該機器の交換および再点検を完了(6月23日)。
 ・発射整備作業を実施中(6月24日~)。

・第2段機体の電気系統電圧変動事象に関わる調査・確認結果 概要
 ・事象
  発射整備作業に入る前の点検中、第2段機体電源供給系統の電圧が規定内ではあるものの変動していることを確認した。
 ・調査
  原因と推定した第2段電力分配器(PDB2)を取り外し工場へ返送して原因の調査を実施。
 ・原因
  PDB2の電子回路上の特定の端子において電圧の変動があることを確認した。
  端子の接触抵抗のばらつきによるものと推定。
  作業不良や部品の不良ではない。
 ・対策処置
  良品のPDB2に交換した。その後、機能点検を実施し、電圧変動がないことを確認した。
  また、同種機器(第1段電力分配器 (PDB1))に電圧変動が無いことを確認した。

・質疑応答
南日本新聞・愛称が「いぶきGW」となったが、「いぶき」を使った理由、GWを残した理由。
小島・「いぶきGW」ですが、「いぶき」を踏襲したというよりは、皆さんからの要望が強くて、早く決めて欲しいといったこともありましたので、早く決めたいという思いで関係者で相談し、公募も含めて検討したが、名前を何らかの形で引き継ぎつつ、2つのミッションの重要性を言いたいということを総合的に考えて最終的に「いぶきGW」にした。「いぶき」というのは息づかいという意味だけではなくて、生命力、力強さ、後は新たな未来の始動を象徴する言葉でもありますので、これはと思いまして、それに対して2つのミッション、「G」と「W」、これが非常に重要ですので、これをくっつけたと、そんな経緯です。

NHK・24日の打上げが点検で延期、今回29日打上げと日程が決まった。いろいろ思いがあると思うがH-IIAのラストフライトということもあり、今の意気込みを教えて下さい。
小島・延期にはなったが、改めてその間に感じたのが、いろんな人の思いです。ロケットの方々の思いだとか、国内外のユーザーの方々の期待、あとは地元の方々の頑張れという声を踏まえて、これはやはりロケットも含めて衛星も成功させなければいけないかなと、そういう強い思いが出ています。ロケットについてはH-IIAで打ち上げていただくのはこれで5回目になるが、全て成功裏に収めてていただいているので、今回もお願いしますというところと、衛星はやはり打ち上がってからが勝負ですので、緊張感を持ちつつ、打上げそして運用に集中していきたいと思っています。

読売新聞・延期の理由になった理由が、電子部品に機能異常がある訳でもなく、作業不良や検査の不良でも無かったというところが判らない。その辺りを詳しく説明願います。
長沼・起きている事自体は継続していった時の電圧変動でございまして、こちらはエンジンに供給している電圧が通常は一定の状態で推移すべきところが、少し変動があったということろが特異事象という事でした。この変動そのものはエンジンの方で何かを作動させた時には変動するものではあるが、そういったエンジンの中で作動が何も無い状態で電圧が変動するといったところで、何かおかしくないかと。結局、何も作動していないのに電圧値が変わっているといったところで、PDBという機器の中で電気的に何かおかしいといったところで不適合と認定した事でございます。後の調査で端子部の不良だったという事で、ある特定の端子のところで電圧を計測すると変動する事象が出てくる。端子部のところに何らかの悪いところがあるということで特定して絞り込んでいった事になります。結果的に何が悪かったという点でいきますと、作業が悪いとか部品が悪いといったことではないのですが、そういったものを発見できるようなその後の検査のやり方といったところには今後改善の必要があると考えているところでして、全般にそういう状況でございます。ロケットの組み立てと健全であるといったところを評価していく過程の中で、評価のやり方見方に改善すべき事があるといったことを考えています。

読売新聞・部品の端子自体に不具合があった訳ではないがバラツキがあったという点が判らない。
長沼・端子と端子が接して電気的に繋がるが、端子同士の密着の度合いが悪くて、それを押し付ける力がほんの少し弱かった。例えばその周辺の何らかの変化で力の加減が変わってしまったとか、あるいは端子そのものに異物が入っていたというような事がありますと変わらない状況であっても他の所で線に力が入ってくると状態が変わって、電気抵抗に相当する数値が変わってしまって、それが電圧の変動値として現れたのかなと推定しています。

フリーランス鳥嶋・資料(2頁)の「事象」で『発射整備作業に入る前の点検中、第2段機体電源供給系統の電圧が規定内ではあるものの変動していることを確認した』というところですが、これは資料1頁の6月19日のところで判ったという事で良いか。
長沼・それは違いまして、『機能点検(~6月16日)』と書いてある所で計測されたデータを評価した結果疑義があるということで、延期を発表させていただいたのが6月19日です。

フリーランス鳥嶋・機能点検が終わった6月16日の説明で、機体の各機器が正常に作動することを確認となっているが、その後で電圧変動が判ったということは、16日の段階では正常なデータだったが、その後の作業をされている中で新たに電圧の事象が出て来たのか、それとも16日の正常に動作することを確認というものが少し誤りや見落としがあったのか。
長沼・データそのものは6月16日に計測されたものでございます。機器そのものの正常な稼働はこの日に確認できているものでございます。起きている事象は、かいつまみますと、この日の点検はロケットのコア機体とフェアリングを結合した時にいろいろやっていかなければならない機能点検の中で、このエンジンの方に試験条件として電源を供給しているというモードが作られております。エンジンに電源を供給している間のデータの再確認のときに、またあらためて他に異常が起きていないかといったような目での再確認をした結果、これは大丈夫なのかと調査を深めた結果、これはもっと深く調べるべきであるという判定になったものです。

JSTサイエンスポータル・端子の密着度合いの押し付け力が少し弱い、何らかの加減で変わってしまうということで良品に交換したという話だったが、そういった事が無いように部品は製造されるべきではないかと思うが、良品に交換したという事は部品の不良ではないのか。
長沼・そういう観点でいきますと、部品の不良ではないというのは、取り付けた中身の部品の不良ではないという意味で申しておりまして、大きな見方ですとPDB2という搭載機器の機能に対しては部品不良という識別になるのかと考えています。

JSTサイエンスポータル・PDB2全体としては不良になるため交換したという理解で良いか。
長沼・その通りです。

NHK・GOSATの開発費、もしくは打上げ費を含めた費用について。
小島・JAXA分としては321億円となります。
岡野・環境省分としては160億円となります。

NHK・開発費だけか、打上げ費も含むのか。
小島・打上げ費込みの値段になります。

NHK・合算した額、打上げ費+開発費か。
小島・ご理解の通りです。

NHK・最後の打上げということで、現場の緊張感や、皆さんの思い。
長沼・現場の方につきましては、緊張感というよりは、これまで通りというか、最終号機だからと言って特段何らか気負ってやっているとかいうことは特になく、今まで積み上げてきたものをしっかり守ってきっちり仕事をしていきましょうという雰囲気で作業を進めております。

JSTサイエンスポータル・いぶきGWは当初は昨年度の打上げであったと思うが、今年度のここになったという事で、開発に時間がかかったというのは、どういったところが大変でこのような遅れになったのか。
小島・あまり詳しくは言えないのですがもう少しだけ詳しくご説明すると、部品、それも海外部品にちょっとトラブルがありまして、そのリカバリに時間がかかったために、ちょっと延期したという事になります。

JSTサイエンスポータル・海外部品を修繕したのか交換したのか。
小島・修繕したとご理解いただければ。

JSTサイエンスポータル・とこかは言えないか。
小島・はい。

フリーランス大塚・延期の原因になった件で、電圧の変動が規定内とあったので、そのまま通しても良いとなりそうだと思うが、それでもあえて調べたのは、いつもと違う点があるのて、それには何か原因があるに違いない。そこに何か隠された大きな問題があるかもしれないと疑って調べたらいろいろ見つかったという経緯で良いか。
長沼・経緯としてはその通りでございます。調査したのでこういう場所だとはっきりした。分解調査を始める前の段階では場所が特定出来ていないので、ロケットが機能異常に陥る可能性があると見て、しっかり調べた上で自信を持って打上げたいという思いから調査に入ってしっかり究明できたという事で考えています。

フリーランス大塚・今回は交換という対応をとったが、これは念のため換えたのか、それともこのまま打ち上げていたら問題が起きた可能性があると見て良いのか。
長沼・今では事象が判ったので、前の物で打ち上げても影響は無かったと考えております。

フリーランス大塚・換えなくても大丈夫だが念のため換えたという事か。
長沼・念のためというよりは、換えるという判断を行った時は、これは換えないと飛ばせないというものでした。結果が判った所では大丈夫だったであろうという事になります。

フリーランス大塚・H-IIAは6号機で1度失敗して、7号機からはずっと連続成功を続けているが、そういうのは単純に規定内だから良いではなくて、細かい所を何度も調べる事を繰り返してきたから連続成功を続けてきたのか。その辺の信頼性の考え方なり補足があればお願いします。
長沼・信頼性を確保するという観点での話ですが、点検の結果が規定内といったところであっても、ちょっとした物理事象の変化の中に、本当はそういう変化はしないがそんな変化があるぞという所については、点検のやり方だけでは見抜けないといった事はどうしてもあると、みんなそういう心構えでデータ評価に挑んでおります。その点につきましては過去のH-IIAの中から培われた経験あるいは技術者の方みんながロケットをしっかり打ち上げるんだといった思い、これを結実するためにデータの変化に敏感に評価していって、正常だ、正常で無いのかといった事を評価していくという土俵も出来た上で進めているので、ここまでずっと続けて来られたという風に考えております。

毎日新聞・打上げ費のみの値段を教えて欲しい。以前、1機あたり100億円とされていたと思うが、今回も変わりはないでしょうか。
小島・これは基本的にご回答できない。いろいろ契約等の条件がありまして回答できないという事になってしまいます。申し訳ありません。

東京とびもの学会・今回の打上げ時刻は午前01時33分03秒だが、もし天候等何らかの理由で延期になった場合、打上げ時刻は変更になるのか、それともそのままか。
長沼・このミッションについては日付が変わっても打上げ時刻は変わらず打上げを行っていきます。

NVS・不具合事象について、端子とあったので半導体から出てくる足を想像していたが、圧着の話があったので、配線と配線を繋ぐコネクタ部分というイメージなのか。
長沼・形としては電子部品そのものに端子を接続するためのネジが出ているので、そこで締め付けを行っています

NVS・ネジの締め付けの具合がちょっと、という事だったのか。
長沼・そこが原因でこういう事が起きたと考えています。

フリーランス宇推・以前、H3の燃焼試験の延期があったが、これはH-IIAには関連する作業があるのか。あればクリアしたのか。あと今回H-IIAの最後の打上げという事で、LE-7Aの2段燃焼エンジンが最後の打上げになるが、それに対する気持ちなど。
長沼・H3の燃焼試験の延期がどう影響したかについては、まず延期の原因につきましてはJAXAさんの所掌になるがH3の開発の関係という事で、H-IIAの方には影響は無いと技術的にも評価した上で今この打上げに臨んでおります。このF50号機の射場整備作業については(H3)6号機との並行作業という事で進めて参りましたが、こちらについても6号機とF50号機とはスケジュール上での切り分けをした上で進めておりますので特段の影響無く打上げを迎えているという事でございます。LE-7Aの2段燃焼サイクルについてF50号機の最後のフライトということも含めて述べさせていただきます。この50号機までしっかり進めることが出来たといったところを大変嬉しく思っておりますし、それを支えてくれている皆様が数多くございました。開発初期の非常にご苦労された方、そちらからいろんなことを伝承して今の我々に繋いでくれている方々、また製造に関わりしっかりした製品を作り続けた方々、加えて打ち上げの度にいろいろご迷惑をかけております関係機関の方々、また地元でロケットの打上げを応援してくれる方々、他ニュースを届けていただいて我々の方も勇気づけるような動きをとっていただく報道機関の方々、大変感謝しているところでございます。我々はこの感謝にまずしっかり応えることが今一番大事な事でして、この感謝にしっかり応える事で、結果を出す事で皆様の思いに応えたいというのが、今私が考えている思いです。

NHK・今回の事象は規定内だったが、事象に気づけたというのは、これまで50号機に向けてデータの蓄積があったからこそ気づけたという捉え方で良いか。
長沼・データの蓄積も、しっかりデータを発見できた事の土台にあるもののひとつと考えております。

NHK・6号機の失敗を受けてトレンド評価データ評価をされてきているが、それが功を奏したということか。
長沼・データの評価蓄積もそうですけども、それ以外にも単なる平均値の評価だけでなく、どういった物理事象なり事が起きていてといったところを、そういった理屈と、こういった事が起こるはずなのでこういったデータが取れる、逆にこういったデータが取れるが理屈と違う事が起きていないかといったようなところを、起きている事象と照らし合わせて広く見ていくといったような所も非常に大事な事だと思っていて、そういった所が過去の打上げから、6号機だけでなく、毎号機少しずつ何かが起きていたりというような事もございましたので、そういった所の経験が活きているかなと考えています。

以上です。